毎日

結城灯理

毎日

 ある日、扉を開けると、目の前に自分とよく似た背丈の男が立っていた。


 男は、僕の目をまじまじと見てから口を開く。


「僕の話を聞いておくれよ。今日僕は恥ずかしい思いをしたんだ。誰も転ばないようなところでつまずいてね。周囲の人に馬鹿にされて笑われてたよ」


 無理やり作り笑った男は言う。


「君は背負って生きていかなければならない」


 言っていることがよくわからなかったので、僕はズボンのポケットからナイフを取り出し、男の胸に突き刺した。男は、血を吐いてゆっくりと倒れた。




 ある日、扉を開けると、目の前に自分とよく似た背丈の男が立っていた。


 男は、僕の目をまじまじと見てから口を開く。


「僕の話を聞いておくれよ。今日僕は人を馬鹿にしたんだ。周囲の人は笑ってくれたんだ。いい日だったよ」


 不快に笑った男は言う。


「君は背負って生きていかなければならない」


 言ってることがよくわからなかったので、僕はズボンのポケットからナイフを取り出し、男の胸に突き刺した。男は、血を吐いてゆっくりと倒れた。




 ある日、扉を開けると、目の前に自分とよく似た背丈の男が立っていた。


 男は、僕の目をまじまじと見てから口を開く。


「僕の話を聞いておくれよ。今日僕は疲れる思いをしたんだ。理由はよくわからないけど、僕の肩には希望や未来がのっているらしいんだ。重くて凝りができちゃうよ」


 苦笑いをした男は言う。


「君は背負って生きていかなければならない」


 言ってることがよくわからなかったので、僕はズボンのポケットからナイフを取り出し、男の胸に突き刺した。男は、血を吐いてゆっくりと倒れた。

 

 


 ある日、扉を開けると、目の前に自分とよく似た背丈の男が立っていた。


 男は、僕の目をまじまじと見てから口を開く。


「僕の話を聞いておくれよ。今日僕は虚しい思いをしたんだ。親しい人が亡くなってね。僕はなぜか悲しむことができなかったんだ。心をどこかに捨てたのかも」


 真顔を崩さない男は言う。


「君は背負って生きていかなければならない」


 言ってることがよくわからなかったので、僕はズボンのポケットからナイフを取り出し、男の胸に突き刺した。男は、血を吐いてゆっくりと倒れた。

 


 

 ある日、扉を開けると、目の前に自分とよく似た背丈の男が立っていた。


 男は、僕の目をまじまじと見てから口を開く。


「僕の話を聞いておくれよ。今日僕は辛い思いをしたんだ。信じていた人に愛情をもらえなかったんだ。言葉を刺されると痛いもんだね」


 胸に手を当てた男は言う。


「君は背負って生きていかなければならない」


 言ってることがよくわからなかったので、僕はズボンのポケットからナイフを取り出し、男の胸に突き刺した。男は、血を吐いてゆっくりと倒れた。

 



 ある日、扉を開けると、目の前に自分とよく似た背丈の男が立っていた。


 男は、僕の目をまじまじと見てから口を開く。


「僕の話を聞いておくれよ。今日僕は苦しい思いをしたんだ。みんなに気を遣って生きてきたつもりなんだけど、なにも意味がないことに気がついたんだよ」


 唇を噛んだ男は言う。


「君は背負って生きていかなければならない」


 言ってることがよくわからなかったので、僕はズボンのポケットからナイフを取り出し、男の胸に突き刺した。男は、血を吐いてゆっくりと倒れた。




 ある日、扉を開けると、目の前に自分とよく似た背丈の男が立っていた。


 男は、僕の目をまじまじと見てから口を開く。


「僕の話を聞いておくれよ。今日僕はしんどい思いをしたんだ。想いを寄せていた人と喧嘩をしてね。わざと相手を深く傷つけたんだ。最低だろ」


 悲痛な表情を浮かべる男は言う。


「君は背負って生きていかなければならない」


 言ってることがよくわからなかったので、僕はズボンのポケットからナイフを取り出し、男の胸に突き刺した。男は、血を吐いてゆっくりと倒れた。 

 

 


 ある日、扉を開けると、目の前は死体だらけだった。どうにかしなければいけないので、警察を呼ぶことにした。


 警察の男は、僕の目をまじまじと見てから口を開く。


「こんなに殺したらあなたは死刑確定ですよ。どうせあなたも死ぬしかなくなるにのにどうしてこんなことするんですか」


 投げやりな態度の男は言う。


「君は背負って生きていかなければならない」


 言ってることがよくわからなかったので、僕はズボンのポケットからナイフを取り出し、男の胸に突き刺した。男は、血を吐いてゆっくりと倒れた。

 

 


 ある日、扉を開けると、目の前は死体だらけだった。どうにかしなければいけないので、救急車を呼んだ。


 救急救命士の男は、僕の目をまじまじと見てから口を開く。


「なんでこんなになるまで放置してたんです。もっと早く助けを呼ばなきゃどうにもならないじゃないですか。頼ってくださいよ」


 怒り顔の男は言う。


「君は背負って生きていかなければならない」


 言ってることがよくわからなかったので、僕はズボンのポケットからナイフを取り出し、男の胸に突き刺した。男は、血を吐いてゆっくりと倒れた。

 


 

 ある日、扉を開けると、目の前は死体だらけだった。どうにかしなければいけないので、清掃業者を呼んだ。


 清掃業者の男は、僕の目をまじまじと見てから口を開く。


「お客さん。だめでしょこんなに汚しちゃ。自分のことは自分でやらなきゃいけないよ。いくら私が業者だからといって、甘えちゃだめだよ」


 困った顔の男は言う。


「君は背負って生きていかなければならない」


 言ってることがよくわからなかったので、僕はズボンのポケットからナイフを取り出し、男の胸に突き刺した。男は、血を吐いてゆっくりと倒れた。


 

 

 ある日、扉を開けると、眼前は死体だらけだった。どうにかしなければいけないけれど、どうすることもできないのでやっぱり死ぬことにした。


 扉の前で待っていると、前髪に風を感じた。目の前に自分とよく似た背丈の男が立っていた。


 僕は、男の目をまじまじと見てから口を開く。


「君は背負って生きていかなければならない」


 不思議そうに首を傾げた男は、ズボンのポケットからナイフを取り出し、僕の胸に突き刺した。僕は、血を吐いてゆっくりと倒れた。




 ある日、扉を開けると、目の前に自分とよく似た背丈の男が立っていた。


 男は、僕の目をまじまじと見てから口を開く。


「君は背負って生きていかなければならない」


 言っていることがよくわからなかったので、僕はズボンのポケットからナイフを取り出し、男の胸に突き刺した。男は、血を吐いてゆっくりと倒れた。

 


 僕は、胸の辺りの疼きを抑えて吐くように息を吸い、昇る太陽に風を求めた。

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毎日 結城灯理 @yuki_tori

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