第6話 答え合わせをしよう
ツツジが綺麗に咲きそろっている。相変わらず、校舎内の花々は美しい。
花の雌蕊よりも黄色い学生の声がこだましていて、どうも活気が良いようだ。
その元気を、ちと分けておくれないか、下級生よ。上回生は将来のことを考えていて足取りが進まないのだ。今日も今日とて授業に出るため、絢爛豪華な寮からボサボサ髪の私は日陰をのそのそと歩いて通っておりますよ。
レンチンをしている最中に過去世を思い出す、という、アニメでも漫画でもどこでも聞いたことのないような日常過ぎる時間の中で私は自分自身の一部をどうやら回収した。あ~自分は女神だったんだ~ほえ~~ほえ~~となんとか何度も反芻しながら飲み込んだ事実を自分の内側で納得するのに何日か。何時間だったかな。そう、時間の感覚がそのあたりから少しずれていたりする。1日なんだか半日なんだか、物事の起こっている密度がとんでもないので、1日で3日分の体験をしている時なんかもある。それはそうとて。
一つ、自分の身体の一部の使い方を理解したようで、感覚的には複雑な機械の一部の操縦がアンロックされたような、そんな感じで身体の不調は大分マシになったのが大きな変化。それによって現実的には、この世界にあるエネルギーの流れみたいなものがある程度読めるようになった。心地の良いエネルギーやそうでないもの、お花のエネルギー、太陽のエネルギー、人のエネルギーなどなど。実は色んな種類があるらしい。それらを自分の身体に取り入れたり、出したりすることで身体のエネルギー循環がより快適になったらしく変にエネルギー切れや爆発を起こすこともなくなった。人の身体のエネルギーの仕組みを感覚的に理解したことで、人のエネルギーの調節や他の方からのエネルギーとの調整できるようになり、身体のエネルギーが無理に抑えられていないから枯渇も爆発もしなくなったんだと思う。
エネルギーが枯渇すると、身体は元気なのにやる気が起きなくて動けなくなったり、爆発すると元気すぎて何をしていても人の視線を引き付けることがあったり体力以上に張り切りすぎて後日めっちゃフィジカルで疲れることになったりする。
どうもこのエネルギー体については、よく理解していない人でも無意識的に反応するみたいで、人の視線や人が集まってしまう現象は膨大なエネルギーを人からもらおうとする働きによってそうなるらしい。おかげさまで昔からジュースを飲んでいるだけで、大人やお年寄りに声をかけられたり、自分が入ったお店だけがその時間混雑していたりとちょっと人間的には疲れやすい環境になりやすかった。
それらが、自らエネルギー調整をすることが出来るようになってからは、出力と貯蔵の両方の調整が出来るようになったため、変に人をひきつけたり、動物に吠えられたり、風船が目の前で爆発したりすることもなくなった。良いことだ。
しかし、以前の誰かさんたちによる声かけによって私の人生以外の歴史を知ることになった私は、別のことも悟ることになった。それは、(これ、ほぼ無尽蔵に過去世とかそういうやつがあって、その一部を知っていく形になるんじゃね?)ということだ。過去世が女神であったことを思い出した結果、エネルギー調整能力が上がった、ということはこれからも様々なつながりを思い出し、それによってどうやら色んな能力がアンロックされることになりそうだ。
そういえば、気になったこととして夢の執事たちが言っていた言葉は「おじょうさま」だった。「めがみさま」ではない。う~ん。これは、また違う過去の可能性もあるんじゃなかろうか。そうなると、彼らとまたお話する機会があるわけで。...大丈夫か?まあいいや、なんとかなるだろう。
授業の行われる教室に入るため、フレア棟へ入る。人の数がとんでもないし、エネルギーについてより理解したからこそ、塔内のエネルギーは日々の疲れの溜まりまくった学生たちの黒いエネルギーとかでモヤモヤしているのが良く分かる。吸い込むとしんどくなるので、自らおまじないをかけてバリアをしつつ、他の精霊さんにもお願いをしてみる。案の定、(いいよ~~!!)と綺麗な光のエネルギーを供給いただいて幸せだ。歩いているだけで私ほどここまで表情の変わる人はなかなかにいないだろう。
まあ、そこんところは置いておいて。授業を受けていきますかね。ああ、精霊さんのエネルギーがあったかいや。
授業を受けた後に散歩でもしようと校内の噴水近くを歩いていたら、見つけてしまった。....なんか光っているおじさま?が噴水の真上にいる。なんじゃあこりゃあ。
向こうも此方のエネルギーの揺れを感じたようで顔をゆっくりと上げた。ひげを伸ばしていて、まるで仙人のような姿。胡坐をかいて西洋風の噴水二段目の石に座っているのであれは人間ではなさそうだ。
「それにしても眩しいなあ」
噴水の水もまた、太陽光に反射して地面のシャンデリアと化しているのだが、おじさん本体が噴水の反射光よりもずっとピッカピカに光り輝いている。光の玉そのものという感じだ。嫌な感じもないから、大精霊さんとかそんなかんじだろうか。
(お~う、ひさしぃのぅ)
なんか挨拶っぽいことを語りかけられた。頭の向きがこちらなので、確実に私と話してくれているのだろう。あたたかい、それでいて神聖なエネルギーも感じる。これは精霊さんレベルではないような気がする。でも、神様級だとこんなところには普段いなければやってくることもまあないだろう。そもそも人が集まる庭園にいくつか存在する噴水でも、この噴水はモヤモヤエネルギーの多い学生が集まる場所なのだから。学生が集まるということで、私は人間生活の都合上この噴水を前にして、「やや、どうもどうも」とは言い難い。
人通りの多いところで噴水めがけて話す人になっては色々まずいので、心の中で(ご無沙汰しております)とだけ返事してみる。頭の中では、誰ですか~と思っているんだけど、きっとそれだと向こうもしょんぼりしちゃうと思うから、挨拶にはあいさつでお返事してみる。
(ほっほ、すっかりちっこくなっても~て)
表情は見えないが、光の玉が大きくなっているところからなんだか嬉しそうなのは伝わってくる。ほかの人たちはこの光の玉に気が付いていないみたいだ。むしろ他の人たちにはどう見えているのか興味がある。で、ちっこくなって、とはなんだろう?精霊さんや神さまとかで、小さい頃から見てくれていた方からは、おっきくなって~とおばあちゃんたちみたいなことを言ってくれるのに、逆は初めてだ。
(ちっこく、なりましたか?わたし?)
(あと、あなたとお会いするのははじめてだと思っているんですけ)ど...と伝えている最中、胸のあたりが温かくなった。ぽわ、と自分の身体のエネルギーに火が付いたように光の玉が内側で燃え始めた。
(ほっほっほ、ずいぶんとむちゃをしよるのお)
ゆっくりと肩のあたりが揺れているので笑っているのだろう、どうしよう初対面なのに笑われちゃった。なんで?
(ぬし、いましばらくみんとおもったが、そんなにちっこいむすめのからだにはいっとったんか、どうりでわからんわい)
そして、私の意思や言葉のペースよりも早く会話が進んでいる。今までみたいな、つながってから言葉を話すのとは何か感覚が違う。胸の奥にある光が瞬きながら温度が上がっている。まさか、こっちで会話してる?
(ま~こんなにはやくにめざめたら、さぞかしたいへんじゃろい)
(とにかく、ぶじでなによりじゃ。あとはにせんねんあとにでもあおうぞ)
(たのむぞ~ぃ)
「あえ、えっと...?」
またも間抜けな私の声を最後に、仙人さんは明るく光ってどこかへ消えてしまった。噴水の先端から出る水が少しだけ揺れて水滴がはじけ飛んでいた。
気が付くと、次の授業の入れ替わりで学生の数は減っていた。えっと、にせんねん....2000年?!!2000年後ってそのとき私の肉体は骨すらあるかわかりませんけれども?!
とにかく、寮へ帰りながら整理しよう。なんでも今回の話の内容は私でも吹っ飛んでいるように感じられるから。噴水通りを抜けて、バラ園を右へ、その後小聖樹群の近くを通って校門へ。あとは人の流れに合わせて歩いていれば寮につく。さてと...
なんて言ってたっけ?
マジですか、いつもと違った会話方式だったから自分で発している言葉くらいしか残っていない。それに、残っている言葉が「ご無沙汰しております」と「あえ、えっと...?」くらいなのは確実に私サイドのバグだと思っている。うわ~、最近やっと長年の分離状態が分かってつながったのに、また新しい種が増えたよ。な~んか大事なことを言っていた気がするんだけどな~。
まあ、いっか。
そんなことを言っている私の内側では、光の玉が何か新しい計画を立て始めていたのだった。そんなことをちっぽけな私は知る由もなかった。
女子大生、過去世が女神であることを知る @ShanShan02
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