第18話 恋うさぎ・後編
前回のあらすじ。
人間たちが恋に落ちるのは私たちの「力」なのかも?と盛り上がった。
夜が明けた。
今日の午後、片思い中の女子高生(と興味なさそうな友達)が再び来るはずだ。
「楽しみですね~。もし恋が叶ったらどうします?女子高生がおしかけてきちゃうかもしれませんよ。そしたらきっとエサを持ってきてくれる人が増えて、引き取ってくれる人も現れるかも……!」
ジョンソンはぴょんぴょんとび跳ねる。
「そんなうまくいかないだろ」
「妄想はフリーダムじゃないですか~!お金持ちに拾われて、広ーいところに住んで、いつもあったかくて、毎日おいしいものを食べて……あ、先輩と一緒に住みたいです!絶対楽しいですね!」
「まー。そうだな……」
ジョンソンはその後も理想の暮らしをペラペラと語る。ちゃんと聞いてるつもりだったが、いつの間にか眠っていた。
「うさぎさーん!いませんかあ?」
呼ばれて、ハッと目覚める。
「にゃ、にゃんすか!」
猫見たいな反応で、ジョンソンが起きる。
「来たみたいだぞ」
「あ!ツインテちゃんとロングちゃんですね!」
ツインテがきょろきょろ辺りを見回している。その横で、長髪が退屈そうに立っていた。
「今日は出てってあげましょうよ!」
ジョンソンは目をきらきらさせている。
面倒だったが、断る理由もなかった。
私とジョンソンは寝床を出る。
「あ、うさぎぃ!!!」
ツインテがしゃがんで私たちを迎える。
「待ってたよお!」
「え、向こうから来るなんて」
長髪がちょっと引いている。
昨日あれだけ探しても見つからなかったんだから、びっくりするよな……。
ツインテは私たちをなでまくり、写真を撮りまくる。その間長髪はずっとスマホを見ていたが、ちらちらこちらを見ているのが気になった。
「えっ、わ、わ!」
ツインテが急に立ち上がった。私たちは盛大にビビってしまい、寝床に戻る。
「な、なんすか!」
2人の興味は、違うところに移っていた。
「き、来た!来た!」
長髪の腕を掴んでグラグラ揺らす。彼女は迷惑そうな顔をしていた。
「あーよかったねー」
「話しかけていいかな??」
「いいんじゃね?知らんけど」
長髪はブスッとしてよそを見る。
ツインテが駆け寄る先には、前髪の長すぎる男子がいた。きちんと周りは見えているのだろうか。
「あ、あのっ!高橋くん!」
ツインテが、前髪男子を見上げる。
「あ?」
「ちょっと、今、いいかな……」
「はあ」
「あれがツインテちゃんの好きな人っすね」
ジョンソンのヒゲがピクピクする。
「反応悪いな」
「実は寝てるんっすかねえ。バレないように、目を隠してるとか……」
じゃあなんでちゃんと立ててるんだよ。
ツインテはもじもじしていたが、意を決したみたいに顔を上げた。
「うさぎ、うさぎがいるのっ、公園に!」
「……だから?」
「だ、だって、うさぎだよ?こんな、公園に」
「興味ないな。うさぎとか」
ツインテは「えっ」と一歩後ずさる。長髪は聞こえるように溜息をついた。
いや分からん。うさぎだから聞こえただけかもしれない。
「で、でも、公園に、家で飼われてるようなペットがいるって、不思議なことだと思うんですが……」
ツインテは青ざめている。しかも超小声だ。これは明らかに、人間には聞き取りにくいだろう。
「あ?何?」
ほらね。
高橋クンは露骨に嫌そうな顔をしている。
「あいつやめた方がいいっすよ」
ジョンソンが珍しくいらだっている。
「同感だ」
「ねえ、ちゃんとしゃべる気あんの?」
ずいっと一歩踏み出した長髪が、高橋クンを睨み上げる。
「興味ないって言っただろ」
「あ、ごめん、言ってることヒドすぎて独り言かと思った」
長髪が言い捨てる。高橋クンは一瞬眉毛をぴくっとさせた。
「なんで急に話しかけて来た奴のお気持ち汲んで会話しなきゃいけないの?」
「コミュニケーション能力皆無でウケるわ。こんな奴と話しても時間の無駄だよ。朱音」
うつむいてしまったツインテを見る。
「そもそも俺の時間を無駄にしてきたのはどっちだよ」
「お前のその態度が、会話っていう楽しい時間を無駄な時間にさせたんだろうが」
高橋クンは「うぜえ」と言い捨ててどこかに行ってしまった。
ツインテはベンチでしばらく泣いていた。私たちは茂みから見守る。
「かわいそうっすね……」
長髪はツインテの肩を、ずっと抱いている。
「あんな人だとは思わなかった……」
「私もちょっとびっくりしたよ。あそこまでずけずけ言うような奴だとは思ってなかったけど」
「うん」
ツインテがうつむく。黙って涙を拭う彼女を、長髪も悲し気な顔で見ている。
「僕も、なんか、落ち込んできました……」
ジョンソンが垂れ耳をさらに垂れさせる。
「私もだ」
しばらく沈黙が続く。長髪が毛先をいじりながら、ちょいちょいツインテの様子をうかがう。
ツインテが深く溜息をついたところで、長髪が口を開いた。
「私さ、高橋のことちょっと調べてたんだけどね」
「高橋君のことを?」
ツインテが顔を上げる。
「あんま目立つタイプじゃないじゃん?とんでもないDV野郎とかだったらありえんなと思ってさ。同じ中学の子に話聞いたりとか」
「ロングちゃんがなぜそこまで?」
ツインテが言いたそうなことを、ジョンソンが代弁した。
「嫌な噂は聞かなかったよ。部活でも特にトラブルなかったみたいだし、グループワークとかで一緒になったら結構調べものとかしてくれるらしいし」
「じゃあ、やっぱり、私のこと嫌いだったからあんな風に……」
「それは分からんけど、ほぼ接触なかったんでしょ?球技大会で惚れただけでさ。それなのに嫌いとかはないでしょ」
でも……。と言いかけ、ツインテは口をつぐむ。
こういうときは、良い方に解釈するのがいいぞ。私は心の中でツインテを応援する。
「あんな奴もう忘れなよ。あいつ文系だし、クラス一緒になることないって」
長髪は肩に回した手で、ツインテの頬に流れる涙を拭った。
「でもっ、好きだったもん」
「今日忘れろなんて言ってないでしょ」
長髪はちょっと膝の辺りを見つめてから、言った。
「明日休みだし遊びに行こうよ。映画とかさ」
「でも……今日泣き止めないから……明日絶対むくんでるし……」
「私としか会わないんだから。なんならカラオケでもいいじゃん。誰にも顔合わせんですむよ」
ツインテは涙を拭う。長髪の顔を見て、ちょっと笑った。
「なんか、急に優しいね」
「失恋した友達に優しくしない奴なんて友達じゃないでしょ」
「それもそっか」
ツインテはバックからティッシュを取り出して、はなをかんだ。
「よっし。明日はカラオケ行こう!こういうときのために失恋ソングストックしてあるんだ!」
「なんの備えなのよ」
「えへへ。人生何事も経験せねば!」
と、腕を空に突き上げる。
「ありがとね、美和!」
ツインテが長髪に抱きつく。
長髪の顔が赤くなっていた。
日が暮れて、2人が帰って行く。なんだかんだ、ツインテは笑顔になっていた。
「ひょっとしてですけど、ロングちゃん、ツインテちゃんのこと好きっぽくないですか?」
「そうかもな」
「あ、友達としてじゃないですよ」
「女同士じゃないか」
「まあ、そういうこともあるんじゃないっすか?僕たちあんまり、世の中のこと知らないし」
今まで見てきたのが男女のカップルだけだったので、そっちが多数のような気はするが。私たちが見ているよりもっと、人間の世界は広いのだろう。
「今度、動物愛護の神様にでも聞いてみましょうよ」
「そうだな」
「もし、もしですよ。ロングちゃんがツインテちゃんを好きだったら、僕たちやっぱり恋を成就させたってことになりますよね?」
高橋クンがあんな嫌な態度を取ったのも、もしかしたら長髪の恋のため……?
それは考えすぎだろうか。
「ほんとは、嫌な人じゃないっぽかったですし」
「まあ、本当のところは分からんが……」
「やっぱり僕たち、有名になっちゃうかも!!!」
ジョンソンがぴょんと飛び跳ねる。
もうすぐ満月になる月が、東の空に昇っていた。
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