第13話 やっぱり情けない神様・後編
前回のあらすじ。
私は動物愛護の神に、一度だけライオンに変身し、人間を食べられる能力をもらった。
しかし私は前世で人間だったとき、人を食べるという同種食いの罪を犯したという。そのため、今世でも人間を食べてしまったら、もう二度と人間に生まれ変わることはできなくなるらしいのだ。
私は別に人間に生まれ変わらなくてもいいのだが、動物愛護の神とジョンソンは、絶対に人間に生まれ変わった方が良いという。
「なぜ人間に生まれ変わった方がいいか」という問いかけで、前回は終了した。私は1回分考える時間をもらったわけだが、理由はさっぱり分からない。
追加でもう1回もらおうが分かるようになる気はしないため、率直に尋ねることにした。
「なぜ、人間に生まれ変わった方がいいんだ?」
「あれえ、分からなかったのお?」
「そういうのいいっすから」
「すみません」
ニヤニヤしていた神は、ジョンソンの一言で真顔になる。
僕的にはですね、とジョンソンは前置きをして言った。
「人間は色々支配できるじゃないっすか。僕たちだって、まあ言ってみれば人間が作ったものでしょう?」
「そうなのか?」
うさぎから生まれたものだと思っていたが……。
「鋭いわねジョンソンくん。うさぎの可能性を思い知った次第よ」
神は偉そうに腕を組み、うんうんと頷く。
「ペットというのは、人間によって殖ふやされた動物よ。人間が自分たちの欲望を満たすためにね」
「なんとなくそうじゃないかなあって思ってました!」
「勘なのか?」
「勘っす!」
「さすがだ」
「えーーっ!先輩が褒めてくれるなんて珍しい。もっと褒めてください!」
盛り上がる私たちをヨソに、神は難しい顔をしていた。
「殖やすためだけに生かされる動物もいるのよ……。狭いゲージに閉じ込められて、ロクに食事も与えず子供をひたすら産ませるの。まるで機械のようにね」
「だから、それは神様が情けないからでしょって」
「いやまあそれもあるんですけどねー……。人間がペットに対して凶悪すぎるでしょってっとこもありますよう。あ、ペットを持つことが悪いって言ってるんじゃないですよ。でもねえ、命は大切にしなきゃ。人間は金儲けのことになるとほんと鬼みたいに怖いんだから……」
「神は鬼より強いんじゃないですか?」
「うぐうっ。もう!私のこと攻撃しすぎでしょ!」
ジョンソンは「へへへ」と不敵に笑う。
「それでも、人間はめんどくさい気がするな」
金儲け、というのがどういうものなのか知らない。でも、そういった類の、やることが多すぎる気がする。寝て食べて遊んで、だけじゃ済まないんだろう。登校できない女の子は「学校に行けない」と泣いていたわけだし。
「いやいや先輩、考えてもみてくださいよ。僕たちに毎日にんじんをもってきてくれるってことは、当たり前ににんじんが手に入る場所で生きてるってことじゃないっすか。めちゃくちゃ良くないですか?」
その考えはなかった。
「飼われてたときも、ご主人たちは自由に動けるのに僕は狭いゲージに入れられてましたし。好きなときに友達連れてくるのも、いいなーって思ってました」
「言われてみれば、そうだな」
めんどくさいこともしなければならないが、得られるものも大きい。といったところだろうか。
「僕だってリョウくんみたいに言いたいですよ『ジョンソン、君が気に入ったよ。もしよかったら家にきてほしい』って」
ジョンソンは目を細めて声真似をする。
私が怒りのあまりライオンに変身しかけた、あの子供の真似だった。
「人間はなんだかんだと僕たちの優位に立ってるなーって……先輩感じませんか?」
「いや、ジョンソン君の方が、かなり特殊なのよ。そんなに分析できるものではないわ」
すごい!と神は小さく拍手する。
「人間に生まれ変わった方が良い理由がよく分かった。ありがとう」
「ま、神にとってはこれくらい、ワケのないことですよ」
「失礼。ありがとうジョンソン。分かりやすい説明だった」
「えーっ。私はぁ?」
「すまない。うさぎの私には、神の説明は難しくて」
「そうっすよ、もっとうさぎ目線でよろしくっす」
私たちはニヤニヤと神を見る。
「ぬ、もしかして、私うさぎにからかわれてる?」
「流石に気づきました?」
「くやぴー!!なんだね君たち!神に向かって不敬だと思わないのかね!!」
和服の袖をバタバタさせて、神が怒りを表現する。まあ大して怖くないのだが。
「じゃあ、敬いますんで、僕も人間に生まれ変わらせてくださいよ」
「それはほぼ無理ね。私が力貸してどうこうできることじゃないし」
「やっぱ神様、情けないっすね」
「ちっがーう!君の魂はうさぎ用にカスタムされてるから、私が勝手にいじるとかはできないきまりなの!」
「じゃあ、めちゃくちゃ良いことすれば人間に昇格できるとかは、無いんすか?」
「あるわ!」
神は胸を張る。
「教えてください!」
「それは知らん!」
悪いな!と神はなおも胸を張る。
「じゃあ聞いてきてくださいよ」
「時間があったら、聞いてきてやろう!私は忙しいので、これにてさらば!」
キャラが迷子になってしまった神様は手を挙げると、宙に消えていった。
「ほ~んと情けない神様ですねえ」
ジョンソンは盛大に溜息をつく。
「もうちょっとしっかりしてほしいよな」
「神様がちゃんとしてたら、僕らは捨てられずにすんだのでしょうか」
「そうかもしれないな」
「でも、捨てられなかったら、こんな広い所で自由に生きられることもなかっただろうし、先輩にも会えませんでした」
ジョンソンはにこりと笑う。
「何が本当に良いことなのか、とか、分かりませんね」
私は、大きく頷いた。
その後、私たちは久し振りに追いかけっこをした。
「それにしても、うらやましいっすよ先輩」
「何がだ?」
「人間に生まれ変われるなんて。僕も人間になりたいです~!」
「そうだな……」
人間を食べるか、人間に生まれ変わるか。
どちらを選ぶべきなのだろう。
「ジョンソンは、家で飼われていた方が良かったか?それとも、捨てられた方が良かったか」
「う~ん。難しいっすねえ」
ちょっと鼻をひくひくさせて、ジョンソンは考える。
「選べないっす。だって、比べられないじゃないですか。今は捨てられちゃってるんだから、家に居続けた自分のことなんて、分からない」
「でも、人間に生まれ変わった方が良いとはいえただろう?実際人間として生きたことはないのに」
「あっ、たしかに」
ジョンソンの垂れ耳が、上下に揺れる。
「じゃ、やっぱ、なるようにしかならないってことじゃないっすか」
「結局そうなるのか」
「考えても分かんないし、今は遊びましょーよ!先輩が追いかける番ですよ!」
ジョンソンは元気よく駆け出していく。
体格差ゆえ、捕まえるのはなかなか大変だ。
でも、ごちゃごちゃした頭をすっきりさせるには、朝まで走るのもいいかもしれない。
私はジョンソンにならい、元気よく走り出した。
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