第11話 恋が成就したギャル
「あ、うさぎさん、いた!」
久々に、絵描きの少年がやってくる。私の横で寝ているジョンソンを見つけて、驚いた顔をした。
「えっ、ふ、増えてる!」
野良うさぎ、増量しました。
「エリカさん、ほら、もう1匹いるよ!」
興奮する少年の隣には、前にも見たことがある金髪ギャルがいた。
たしかコイツ、少年の兄ちゃんに恋してるんだよな……。どうなったんだろう。
「ハーイ!ジョンソンでーす!」
跳び起きたジョンソンは少年にテケテケと駆け寄っていく。
お前、もうちょっと警戒心持った方がいいと思うぞ。
「あはは、かわいい!」
とはいえ、相手はよく知っている人間だ。私もいそいそと寝床から出ていく。
「エリカさん、うさぎさんにお礼するんでしょ」
「うん……」
金髪ギャルはちょっと顔を赤らめて、カバンからビニール袋を取り出す。
中に入っているのは、もちろん、にんじん!
お前もにんじんくれるのか!見直したぞ。
「ナオキが色々教えてくれたおかげで、タクマと付き合えたんだ。で、それうさぎ見つけたのがキッカケだったなって。だからこれ、お礼のにんじん」
絵描きの少年、ナオキって名前なんだ。
「良かったっすね!僕には何のこっちゃ分かりませんが、嬉しいっす!」
と私のにんじんに寄っていく。
「コラ!あれは私のだ」
「ええ~いいじゃないっすかあ」
「新しいうさぎさんには、僕があげるよ」
「ありがとうっす!」
本来あれも、私のにんじんだがな。
私は寛大だからな、分けてやろう。
私はギャルの手から、にんじんをもらう。
彼女の爪は、異様にキラキラしていた。しかも、紫色をしている。体調でも悪いのだろうか。
「……なんか、かわいーじゃん」
一心に口をもぐもぐさせる私を、ギャルはスマホで写真におさめる。
ふふん。今さら知ったか。私のかわいさを。
「でしょ!うさぎ、かわいいんだ」
「タクマも、うさぎ好きだもんな」
「お兄ちゃんは、でっかいうさぎが好きなんだ。僕は小さい子がいいけど」
「そか」
「もっとないっすかにんじんー!」
ジョンソンは少年の手やリュックの辺りをくんくんとにおう。
「あはは!ぶちちゃんはなつっこいね」
白に黒のぶちだから、ぶちちゃんなのだろう。
「僕ぶちちゃんじゃないっす。ジョンソンっす」
通じないというのに、ジョンソンは律儀に返事をする。
「いいかもなーうさぎも」
「いいでしょ!」
「家で飼おうかな」
「え?僕をっすか??すみませぇん、実は先約があって……」
「エリカさんち、うさぎ飼うの?!」
少年は、キラキラした瞳をギャルに向ける。
「いやわからんけど、ペット飼いたいなーって毎週ペットショップに見に行っててさ。犬もいいけど、うさぎもけっこーかわいいなって話してたんだよね」
「僕じゃないんすか……」
ジョンソンは垂れた耳を一層垂れさせて残念がる。
「エリカさんちでうさぎ飼ったら、見に行っていい?」
「来なよー。飼うことになったら教えるわ」
「うん!」
「そしたらタクマも、うちに来てくれるかもしれないよね」
誰にも聞こえない声で言ったつもりだろうが、残念だったな。
うさぎは耳がいいのだ。
恋が成就してからも、あれしたいこれしたいは尽きないものだな。
「じゃ、私は塾行ってくる」
「うん!またね」
ギャルは私の頭をくしゃっと撫でると、少年に手を振り去っていった。
「今日は、ぶちちゃんを描こうかな」
「この子、前に言ってた、先輩の絵を描くのが好きな子っすか?」
私は頷く。
少年は真剣な眼差しで、ジョンソンを見つめる。
「……そんな目で見られたら、僕、恥ずかしいっす」
「な、落ち着かないだろ。じゃ、私は寝る」
私は寝床へと帰る。
「ええ~先輩!薄情っすよ~!」
ジョンソンは私を追いかけてくる。
「あ、行っちゃった」
逃げたって無駄だ。
少年は、私の寝床を知っている。
ドタバタとジョンソンを追いかけ、寝床の方に向かってくる。
「ひええ、なんか怖い!」
だろ。
ジョンソンは、別な方へと逃げてしまった。
「また怖がらせちゃったな……」
少年は申し訳なさそうだった。
「やっぱ、この前の続き描こうっと」
と、私を見ながら鉛筆を走らせ始めた。
この役目、後輩にはまだ荷が重いだろう。
今回ジョンソンが逃げたことにより、次はジョンソンを描きに来てくれることが確約された。おそらくは、二匹分のにんじんを持って。
ギャルの家でうさぎを飼ったとしても、まだ何回かは来てくれるに違いない。
初夏の近づく昼下がり。ほどよい温かさに眠たくなる。
久し振りに、一人で寝る。少しの寂しさはあるが、睡魔には勝てない。
見られるのは緊張するが、もう慣れてきた。ちょっと成長した自分に酔いながら、私は眠った。
【本日の人間】
ギャルもにんじんをくれ、私に対し感謝をしていたため、食べる候補からは外そう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます