第6話 今回はちょっと頑張った神様・後編

 ドラムロールの音が、夜の公園で場違いに鳴る。

 神が指を振ると、シンバル音が響いた。


「あなたの前世は、カニバリストだったのよ」


「カニバリストとは?」


「ああ、ごめんね。神だからちょっと難しい言葉知ってるの。今日は神の力を随所で見せつけちゃっているなあ」


 うっとうしいのでそっぽを向くと「ごめんよう、最後まで聞いてえ」と泣き真似をする。


 ちょっと間をおいてから彼女の方を見ると、「おほん」とわざとらしく咳払いをして胸を張る。


「カニバリストとは、人を食べる人間のことをいうの。もちろん、同種食いは神的にもかなりのNG行為」


 その割に、なんか表現が軽いよなあ。


「あなたは前世で人間をたくさん食べたらしいわよ。それで、今世では草食動物の、しかもめっちゃ小さいうさぎに生まれ変わったってワケ」


 指をさされるが、自分の話に聞こえない。


「変な望みじゃない?草食動物のくせに『人間が食べてえ』なんて。それで調べてみたんだけど、納得いったわ」


 両目をつりあげてみせる。私の真似をしているつもりなのだろうか。


「前世の業とは、恐ろしいものね。そして私は前世の罪を繰り返さないよう草食動物に生まれ変わったというのに人間を食べる能力を与えてしまうというハイパーヤバいミスをやってしまいまして、それはほんとにやっちまったと思っておりまして」


 めちゃくちゃ早口だ。


「同種食いじゃないのだから、問題なさそうだが」


「それが、やっぱ魂が人間用だから人間を食べるのはマズいらしくて」


 上目遣いに私を見る。うさぎに媚びを売るな。


「今世で人を食べたら、あなたはもう二度と人間には生まれ変われなくなるらしいです」


 先ほどまでの威勢はどこへやら。しょんぼりとしていた。


「申し訳ないです。あなたに難しい二択を強いてしまって」


 私は、さほど人間に生まれ変わりたいと思っていない。


 神にそう伝えると、目を丸くした。


「人間、いいよ~。生まれる場所にもよるけど、食物連鎖の頂点だし」


「毎日人間を見ているが、皆なかなか大変そうに見える」


「まあー。ううーん。まだ若いから、分かんないのかもしれない。魂はね、基本人間に生まれ変われるようにグレードアップしていくのよ。動物でも、いいことをすると人間に生まれ変われるようになるの……ん?」


 自分の言ったことに首を傾げた神は、ハッとしたように手の平を打ち合わせた。


「ああ、分かっちゃったぞ!人間を食べたとしても、いいことをしたら多分、人間に生まれ変われる。だって魂が人間なんだから、そう大変なことじゃないはず。そうだね、人間の命を10人くらい助けたら、まあ1人くらい食ってもいいっしょ!」


 何もかもが軽い。しがないうさぎにどうやって人間の命を救えと。


「いちお生命の神様に確認してくるわ!またくるね~」


 神は私の戸惑いなど1ミリも気にせず、消えてしまった。


 ……また来てくれるというのなら、今日のところはまあよしとするか。


 人間に生まれ変わりたいとは、全く思わないわけだし。神はもったいぶった報告をしてくれたが、私の生活に変化を及ぼすことはないだろう。


 明日からも、生きていくための努力を繰り返していくだけだ。

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