第5話 今回はちょっと頑張った神様・前編
「やっほ!動物愛護の神だよ。元気してたあ?」
真夜中の公園に、少女の声が響く。
疲れたサラリーマンがとぼとぼ歩いているが、こちらには目もくれない。神の声は他の人には聞こえていないようだ。
この神は、私に「一度だけライオンになり人間を食べられる」力を与えてくれた存在で、和装の少女の見た目をしている。ちなみにかなりポンコツで、未熟な感じだ。
「見たとこ、食べ物とかにも困っていなさそう。病気にもなっていないみたいだし。君は野宿にむいていたみたいだね」
「たまたまうまくいっているだけだ。夜は寒いし、雨のときはご飯も食べられず大変だから、できるなら家に戻りたい」
私は元ご主人の顔を思い出す。元気にしているだろうか。私を捨てやがったという憎さはあるが、それなりにかわいがってくれた。家はいつも快適な温度に保たれ、昼間は静かでゆっくり眠れる、うさぎの私にとって快適な場所だったし。
思い出すと、切なくなってしまうな。やっぱ、戻りたい。
「あなたの元ご主人様、ずうっとぼーっとしてるわ。なんか元気がなくて」
「ご主人は、不安定な人だから……」
心配だ。
夜に私を抱きしめて、ぽろぽろ泣いている姿を思い出す。
ご主人には絶対、私が必要だったはずなのに。なんで捨てたんだろう。
しょんぼりする私に、神は慌てる。
「あっははー★暗くなっちゃった。私ってばすぐ余計なこと言っちゃうの」
めんごめんご、とげんこつで自分の頭を小突く。
この神様、ちょいちょい古くさいんだよな。
「今日は元ご主人様の話をしたくて来たワケじゃないのよーん。聞いたらきっと、驚くよ。ね、どう、聞きたい?」
「別に」
「そう言われるような気がしてましたー!でも言うよ。なんと、なんとですね……」
神様がピンと指を立てると、どこからともなくドラムロールの音が聞こえてくる。
無駄なところで神の力を使うな。
大げさなシンバルの音がシャァァァンと響く。
「あなたのゼンセ、なんと人間だったのです!!!!」
「ゼンセ?」
「オオウうさぎだから前世を知らない。私がわざわざ生命の神に首を垂れわいろを渡しあれやこれやで聞いてきたのに、知らないとは。まあうさぎの脳みそはミニマムサイズだし、しょうがないか……」
やれやれ、といったように首を横に振る。
「人間の体の中には魂ってのがあるの。肉体が死ぬと、それは天上のめちゃくちゃ偉い神様のところに行って、ちょっと待つ。で、神様からゴーサインが出たら次の肉体に入るの。ここまでOK?」
よく理解できないが、「OK?」の顔が絶妙にウザイので頷いておく。
「つまり、前世っていうのは、自分の魂が前に入ってた人間のことよ」
「私は人間ではないから、前世などないのでは」
チッチッチと芝居じみた調子で指を振る。
「もう少し説明を聞いてちょうだいな。魂って適合する体が決まっているから、人間が別の動物に生まれ変わるってことはほぼないの。しかーし!物事には例外というものが存在しますね」
神はキメ顔をかます。
「生命をボウトクする、許し難い悪行を行った人間は、動物に生まれ変わります。何に生まれ変わるかは、前世で犯した罪によるの。つまりあなたは、前世で重大な罪を犯したの。その罪とは!」
神は再びドラムロールを鳴らす。
ええい。結論に至るまでが長いぞ。読者はみな忙しいのだ!離脱されてしまうぞ!
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