時間変化

結論から言うと、5分短くしたことは特に問題を起こすことは無く、かと言って何か直接的に良い結果をもたらすこともなく、実験最終日の28日目を迎えた。最終的には1日を21時間でやり直す形になっていた。そのうち、1時間くらいは計算室内で計算を待つ時間なので、寝る時間を引いて起きている時間はかなり短くなっていたのだが、特に体調を崩す者も出ず、最終日まで来ることができた。これで、実質まるまる2日分くらいは時間を節約できたことになる。

30回近くもおなじことを繰り返したら、計算終了直前の音で、なんとなくそろそろ終わるころ合いなのが予測できるようになる。


「よし、終わったみたいだな。」

「やったね。」

「長かったなぁ。」

みんな口々にコメントを言う。

「とりあえず、27回分のデータが取れたけど、分析と結果発表は寝て起きた後にやる?それとも、今すぐ結果が見たい?」木村がみんなを振り返りながら聞く。

「いや、だいぶ疲れたし、明日の朝でいいかな。分析ってどれくらいかかるの?」

「お前ら、実験やったことないのか?直行表に割り付けた試験をやる場合は、実験が完了した瞬間に、ベストなパターンとその数値がわかるんだぞ。」

「え?そうなの?じゃあ、今結果が知りたい。」

「もったいぶらずに教えてくれよ。」

冷静に考えて、深夜3時頃に終わっていた計算は今や23時に始まって0時頃に終わることになっているので、正直みんな元気が残っている状況なのだ。


「まあただ、そのうえで、この結果を聞いてみんなが寝られなくならないといいんだけど……。」

「え?どういうこと?」

「まあ、とりあえずこの画面を見てくれればいいよ。」

Excelの画面に、いくつかのグラフが作られている。下の方に数字がいくつか書いてあるが、どれが大事なのかよくわからない。

「見てくれれば良い、ってほどわかりやすくないか。いいか?この下の方に並べて書いてある数値が、各項目をどういう値にしたら一番良い結果になるかっていうやつで、いわゆる説明変数ってやつだな。んでもって、今回色々実験した結果最高のパラメータにした時の人類が"生き残れる確率"がこれだ。」

そういって、Excelをスクロールしていく。


7.2e-8


「えーっと、これはどうやって読んだらいいんだっけ?イーはち?」

「頼むよ。理系だろ?7.2×10のマイナス8乗ってことだよ。つまり、パーセンテージで言うと、0.0000072%ってことだ。なんと、もともとの数字の100万倍の確率で人類は生き残れるぞ。」木村がこういう時にやりがちな、悪戯をするときのにやにや顔で喋る。

「お前、それ、本気で言ってる?ふざけてる?なんて反応していいかわからないんだけど。」

「半分本気。半分は、ちょっと自分でも絶望しちゃったからこれはギャグにしないといけないなと思っている。」

「そうか。その気持ちは分からないでもないが……。でも、結局結論は、天文学的な低確率から、天文学的とは言わないまでも死ぬほど低い確率に格上げされたってことか。」

「まあ、そうなるな。だけど、良い情報もあるぞ。」木村が続ける。

「え?何々?なんだ?」

「ほら、この辺見てみて、この数値を変えても結果が全然変わってないだろ?つまり、このパラメータは結果に影響を与えないんだ。」

「なんだよ。俺らのこの何日かが無駄だったと言いたいのか?」

「いや、違う。ほぼ全く影響を与えないパラメータがあるのに100万倍も数値が動くということは、めちゃくちゃ寄与度が高いパラメータもあるってことになるじゃん?それが、これだ。」

「うーん、これは、つまりなんだっけ?」

「寄与度が高い順番に上から並べた表がこれなんだけど、見てもらうと、隕石のまわりの空間や、材質を変えられると思っているものなんだけど、この辺のパラメータが凄い影響を与えているんだよね。つまり、この数字や設定方法が正しいかどうかはともかく、隕石そのものを制御することが最大の近道だってわかったわけだ。」

「なるほどね。最初から若干望み薄だとは思ってたけど、地表の火山を噴火させて迎え撃とうとかそういうのはあんまり意味が無いんだな。」

「そうそう。一応、Aが起こったときに同時にBも起こると格段に確率が変わるような、専門用語でいうところの交互作用がある場合はわからないこともあるけど、単品で言うとそういうことになる。」

「ということは、ここから先は、重力物理学の専門家のご子息でご自身も物理学専攻をされている、穂高先生の知見が役に立つってことだな?」高岡が急に穂高に話を振る。急に穂高以外の6人の視線が穂高に集まる。

「え?急に僕?」

「そうだな。急かどうかは知らんけど、これまでみたいに統計と実験計画の問題ではなく、論理的に何か隕石の衝突モデルとか、衝突経路のシミュレーションみたいなのを考えないと行けないフェーズに入って来たんじゃないか?」

「うん、確かにそうかも。」

「ということで、何日か前に話してた、隕石の位置に関する穂高先生の見解を聞こうじゃないか?結構いっぱい時間があったはずだぞ。」

「え?穂高何か知ってるのか?」

「なんで黙ってたの?」

「教えてください。先輩。」

「いやいや、別に何かを知っているわけではないんだけど……。でも、違和感に関する結論は僕なりには整理できたから説明するよ。でも、それは長くなるから寝て起きた後じゃダメかな?」

気が付けばあれから結構な時間が経過していた。

一同は顔を見合わせて、全員一致で一旦寝ることにした。一日が短くなっているとはいえ、土日もなく活動していたのだ。皆それぞれ相当な疲労が蓄積していた。







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この世界の方程式を解いたら… みずはらかずき @yamaken1st

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