先生

イタチ

先生

良く晴れた早朝には、様々な人間が、太鼓でもたたかれたかのように、大通りを、闊歩し車が行き買う、一本線を外れ、住宅地の並ぶ、比較的、車よりも人の通りの多い場所で、サラリーマンたちが、灰色の服装に、身を包み、電車へと、飲み込まれていく、さながら、寄生虫の宿主のもとへと、里帰りしているような光景の中、それでも、挨拶は、飛び交っていた


「おはようございます、先生」


ピンク色のエプロンに、渋い服をした、主婦が、熱くなりそうな、日の下


これも、同じように、スーツを着た茶色い男へと声をかけた


「ああ、佐藤さん、おはようございます」


男は、そういわれ、挨拶を返すと、そのまま、列から道を離れ、表通りに面した道へと、歩いて行った、どこにでもある、日常風景の一こまを、抜粋したような、文字である




その男は、挨拶もそこそこに、表に出ると、大通りを、歩き始めた


他の人間の絶対数とは、まったく逆方向であり、それは、川を、遡る鮭の様である


彼は、一軒の家に入る


すると、


曇りガラスが、ガラガラと、音を立て、現代では珍しく、店でもないのに、カギがかけられていないようで、それは、簡単に、扉を開き、男を、招き入れた


「佐藤さん元気にしていますか」


すると、向こうの曇りガラスの引き戸が開いて、腰の曲がった老婆がエプロン姿で、現れた


朝食でも作っているのだろう、廊下の時計は、まだ八時を、超えてなどいなかった


「ああ、これは、これは、先生どの、わざわざすいませんね」


いえいえと、首を振るのにも、ほどほどに、男は、軽く、あいさつをすると、家を、また出て、先ほどの大通りへと出た、打って変わって、喧騒は、さらに激しく、動悸を速めた心臓のように、血管が異常に、鉄の車となり、黒い血管を、走り始めた図は、まるで、固まって、死んだ物のように見えなくもない


「これは先生」


道を、歩いていると、スーツ姿の年配者に、声を掛けられる


髭を、携えており、品の良い高そうな眼鏡をしていた


「いえいえ、先生こそ、おはようございます、これから、仕事ですか」


白髪が混じり始めた老人は、ええと、頭を、うなずかせながら、話をつづけた


「しかし、生徒さんも、大変でしょう」


男は、適度に、相槌を打つ


「しかし、私はどうも、医者でありながら、国語というものが、苦手でして


理科と国語というものは、どうにも、相性がいいと聞きますが、私には、はずれの様です」


男は、首を振りながら


「そんなことはありませんよ、日曜学校も、やっていますし、一度、暇なときにでも」


白髪は、そうですか、そうですかと、うなずきながら、二人は、別れた


男は、同じように、また歩き出す、もともと、別方向に、すれ違ったので、二人の距離は、あっという間に、変わっていく、交番を、通り過ぎ、川の上の小さな橋を、渡ろうとしたとき


子供連れの母親に出会う、小さな手を、母親が長い腕で、上から握り手をつないで、歩いていた


「ああ、先生、おはようございます」


小さな、女の子が、そういって、男に、声をかけた


「ああ、おはようございます、佐藤さん、それで、元気ですか」


母親は、それに、肯定の意味を兼ねて、うなずく


「でも、先生、最近は、お忙しいんじゃありませんか、先生は、腕がお上手ですから


琴のお稽古を付けに、向こう岸まで、言っていると、佐藤さんに聞きましたよ」


「いえいえ」


そう言って、一人と、二人は、別れた


背後で、子供が、母親に聞いていた


「ねえ、あの先生、向こうの斎藤さんの家では外科医の先生だって、言ってたけど・・何の先生」

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先生 イタチ @zzed9

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