第31話 幼馴染み

弥生さん宅の横の畑を斜めに横切り、盆栽小屋の横の竹藪を掻き分けながら進むと、ぐるっと何軒も越えて行くより、あっという間に幼馴染みの家に辿り着く。

幸子ちゃん遊びましょ、お決まりの言葉だった。幸子ちゃんの家は、赤い塗炭屋根の平屋の母屋と、当時まだ珍しかった水洗トイレがある立派な二階建ての新宅が繋がっていて、敷地の中には小さな親戚の家も在った。幸子ちゃんのお母さんは背が高くスラッとした人だが、言葉がパッと出てこなかった。昔は、吃り、と言われていて、私が幸子ちゃんの家に遊びに行く事を両親は快く思って居なかった。

幸子ちゃんの家から狭い道路を挟んで隣には、あの小さな神社が在った。生け垣で中が良く見えないが、彼女も祖母から近づくなと言われているらしい。幸子ちゃんのお婆さんは優しくて大きな人だった。いつも遊びに行くと、手作りのおやつを出してくれた。パンの様なふかふかした餡まんの皮のような、ちょっと不格好な蒸した饅頭で、熱々の作りたてを私達に分けた後、畑の棲みに在る小さな屋根が付いたお家に入ったお地蔵様に御供えをしていた。幼稚園児の頃はお地蔵様だとずっと思い込んでいたが、小学生になり初めてそれが、首が捥げた六十センチ程の仏像だと知った。何あれ?と幸子ちゃんに聞いてみても、昔から在るらしいよ、おばあちゃんが子供の頃みたい、と曖昧な解答で、何故そこに在るのかも解らなかった。

幸子ちゃんは何でも一緒に遊んでくれたので楽しかったのだが、中学になると全国学力テストや偏差値など、人を数字で仕切るシステムに大人も支配される様になると、なかなか一緒に遊べなくなった。偏差値など気にしなければ、彼女は背が高く、手足も長く、優しくてとても素敵だった。高校を卒業した彼女は、東京でハウスマヌカンになった。彼女ならピッタリだと思った。一度彼女が働いていたショップに行ってみたが、それきり、彼女には会っていない。元気だろうか、結婚して子供が居るだろうか。どうか幸せになっていて欲しい。

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