第30話 青写真
小学校に上がると、バレンタインデーという行事を知った。冬休みも終わり新学期も始まると、男子も女子もそわそわし始める。クラスメイトの女子数人に、朱里は和哉君にあげなよ、と、勝手に決められ、私は言われるがまま、相手には何の興味も無かったが、流行りのナッツが沢山入ったハート型の大きなチョコレートを渡した。本当にあげたってよ、と、私に勧めた女子軍団がざわざわしていた。私達の学校は貧しい農村地帯に在った為か、私服での登校が禁止されていて、生徒は全員、毎日、男子はブルー、女子はオレンジのラインが入ったジャージで過ごしていた。
またくれよな、私の席まで来て、そうぶっきらぼうに言い急ぎ走って行った。その子のジャージの袖は少しほつれていた。二時間目の休み時間の鐘が鳴っていた。
その変な子に少し興味を持ち、調べると妹がいた。私は彼女に兄の事を聞こうと、腕を掴んだら、急に泣かれて先生に言いつけられた。そんなに強くも掴んで無かったのに、逆に何で?とちょっと苛ついた。隣のクラスだった和哉が乗り込んで来て、私に悪態を付いて妹に近づくな!と怒鳴られた。更に彼は、私に何かを投げ付けたが、まだ運動神経抜群だった私はさらりと避けた。クラスの大きなベランダに出る硝子扉に当たり、運悪くヒビが入った。担任教師は和哉の両親を呼び出し、大事になった。どうやら和哉は私のせいにしたらしい。ケツの〇が小さい男だ、なんて女々しい奴。と思い幻滅したが、多くのクラスメイトが和哉が投げた事を見ていたので、担任から形だけで良いよと言われ、私は反省文を書くだけですんだ。珍しく私に味方をしたクラスメイトが居たらしい。そもそも、和哉の妹がちょっと腕を掴んだ位でぎゃあぎゃあ騒ぐから、こんな面倒臭い事になったのだと、ムカついたのを覚えている。
小学生の頃に私は漠然と早く結婚したいと思っていたが、相手はなんとなく和哉では無い、と解っていたし、顔がぼんやりアメリカ人ぽい目鼻立ちがはっきりした、彫りの深い感じの男性だと思っていた。ただそんなお洒落な顔立ちの男子なんて、田舎も田舎の小さな小さな村の小学校には居るはずもなく、誰で妥協しようかと小学生なりに考えていた。
当時私は千代さんのお蔭で、絵画も書も展覧会の賞を総嘗めしていたので、本来担任教師が書くべき時間割や掲示板へのお知らせなどなどを、私が放課後手伝わされていた、というより一人で全部書いていた。もちろん学校で一人だけピアノも弾けて、勉強の成績は学年一位、スポーツも持久走や陸上でメダルを獲得していた為、毎朝の全校集会は、校長先生が私を表彰する為に開いている、と担任教師から言われていた。ので、教師ウケは、めちゃめちゃ良かった。だが、一人っ子や二人兄妹が多かったので、私の独り勝ちにクラスメイトは良い顔をしなかった。そう言われても、私は賞が欲しくて書いている訳でもなく、特別絵を描く事が好きな訳でもなく、体育も好きな訳でもなく、全て好きな訳でもなく、ただ、千代さんのお蔭で出来てしまっていた、だけだった。嫌がらせは私の書いた作品を破る奴が現れたり、いちいちチマチマしたものだった。独り勝ちな状態も、小学生までだったし、月経が始まると、私の人生は一変した。
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