第28話 本棚

弥生さんは、物置小屋の横で矮鶏を飼っていた。もともとは八吉さんが飼っていたのだが、亡くなってしまったので、弥生さんが世話をしている。矮鶏の小屋は、ヘビが侵入しない様に金網も二重になっていた。私は雛が可愛くて可愛くて、どうしても触りたくて、扉を少し広げ、餌を扉から外にパラパラと撒いて、誘き寄せて籠で捕まえようと、籠に紐をくくりつけたつっかえ棒を立てて、じぃっと待った。警戒心の塊の矮鶏の雛は、三十センチ位しか出てこない。何度待っても三十センチしか出てこない。私は痺れを切らして出てきた雛を追いかけた、が、捕まらなかった。数日するとストレスか餌の食べ過ぎか、雛は亡くなってしまった。

私はやっと歩き始めた頃にも、ジャンバースカートの胸のボタンに紐をくくりつけて、その紐の先には十姉妹をくくりつけて、クレマチスの咲く庭を散歩していたのだが、踏んで死なせてしまった。凄い形相で母が慌てて走って来て、鳥と紐を私から剥ぎ取った。

また、車庫の前には真っ白な兎が沢山囲われていて、よちよち歩きの私はその中に入ってゆき、一匹の丸いフサフサの尻尾を掴み放さなかった。ブチッ尻尾が切れて目の前が真っ赤になった。また凄い形相で母が走って来て、私から真っ赤に染まった服を剥ぎ取った。両方一歳位の記憶だろうか。

私達が小学生の頃、弥生さんはカナリアを飼っていたが、よくヘビに呑まれていた。今度はレモンイエローのカナリアを飼うが、またヘビに呑まれる。その都度父を呼んで来ては、木製の鳥籠ごとドラム缶の中に放り投げてもらい、燃やす。そしてまた、カナリアを飼う。子供心に守れないなら、飼わなきゃいいのに、と、思ったが、八吉さんが居た頃は、手乗り文鳥も居た。八吉さんにアルファベットを教えてもらったりもした。あまり物を置いて無かったので、本なども見た記憶が無かった。

反対に母屋は物が溢れていた。

あれ?開かない。母屋には、立派な飾り扉の天井までの大きな大きな本棚がある。しかし鍵が掛かっていて開かない。開いているところを見た事もない。鍵は誰が持って居るのか?母に聞いても知らないと、言われた。祖母に聞いても母が持っていると、言われた。ピアノの横にあるのだが、どうやら祖父の物らしい。祖父が亡くなってから、誰も開けた事が無いし、中の本を確認した事もないらしい。

背表紙も何が書いてあるのか良く見えない。ただ分厚い重々しい本が隙間無くびっしりと並べられていた。その中に真っ黒に焦げた一際分厚い本が、一冊目立っていた。何だろう。

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