第22話 雷

「くわばら、くわばら」

弥生さんが両手を擦り合わせながら、瞼をぎゅぅっと瞑り、仏壇の蝋燭に火を付けてお線香をあげ、半紙で包んだお米を御供えしながら、ぶつぶつ唱えている。

「大丈夫だよ、光ってからだいぶ経つよ」

弥生さんは千代さんに促されやっと敷き布団に座った。いつも千代さんが一人で寝ている和室に、今夜は特別に、五組も布団が敷かれている。弥生さんと千代さんは、雷が大嫌いだった。二人は、お臍に梅干しも塗った。八吉さんは二人とは真逆で、雷を気にもせずに雷鳴轟く中、鍬を振り下ろし畑仕事をしていたらしい。それもどうかと思うが、仏壇にお線香をあげてお米を御供えするのも、どうかと子供心に思ったが、二人は真剣そのもので、雷鳴が聞こえなくなるまで、眠らずにゴニョゴニョ唱えていた。近所で雷が落ちて亡くなった人が二人も居たからか、それも原因かも知れない。私は二人とは真逆に、雨の音も雷鳴も心地よかった。

翌日、御供えしたお米を家中に撒く。そして毎年箒売りが売りに来る一本一本手造りの高箒で、丁寧に一粒残らず集める。何故だか解らないが、雷が鳴ると一連の作業をする。そのお米は炊かれて、ぶつぶつ何かを唱えながら祖母や弥生さんが一粒残らず食べる事になっていた。

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