第20話 ピアノ

二歳と四ヶ月の雪が降る寒い冬に、二階のガラス戸から中へ運ぶ為ゆらゆらとクレーン車に吊られ、黒い大きなピアノが、宙に浮いていた。そんな光景をはっきりと覚えている。二階の急すぎる階段を上がり、すぐの部屋は、壁が防音になっていて、父がドラムセットを置いて叩いたりしている音楽部屋だった。どうやらそこにピアノを置くらしい。ど田舎の小さな小さな村にはピアノ教室なんて無かったので、隣町まで父か母の送迎で通わされた。まだ二歳半程の私を初めて見た先生の大学生のお嬢さんは、白にラインの入ったテニスウェアーに白のプリーツのスコートを履いて脇にラケットを挟みながら、

「可愛い、私に教えさせて!」

と先生にお願いしていた。その日からテニスウェアーのお嬢さんは、私のピアノの先生になった。先生は、バイエルンを開くと、

「リンゴは知っている?」

と私に聞きながら、楽譜にリンゴの絵を描いて音符に例えた。

「これは、リンゴ一つ分ね」

などと丁寧に教えてくれた。ピアノ教室の後には、近くのデパートに寄りアイスクリームを買って貰えるので、まぁまぁ楽しかったのだが、小学生になると、クラスメイトの女子が自宅に遊びに来て、この音何?と鍵盤を弾きながら聞くので答えていると、全部解る事を嫌がられたので、ピアノが弾ける事が微妙になる。そもそもクラスメイトどころか村にピアノが在るのは、うちか学校位だったから、エレクトーンしか無いクラスメイトの女子からは、嫌がらせを受けまくる。うちの村ぐらいかもしれないが、小学校の夏休みには、夏休み中朝からずっと練習してドッチボール大会があり、四年生にもなると毎日放課後は、陸上の練習があり、どんどんピアノなんてやっている場合ではなくなり、六年生のピアノの発表会を終えたら、丁度お嬢さんも御結婚が決まり、担当の先生が代わり、やたらと鍵盤を弾いている手をバシバシ叩く中年の女の先生になり、嫌で辞める事にした。丁度?ピアノ教室への送迎中に、私達を乗せた車が二度事故に遭い、二度ある事は三度ある。。かも?と、祖母に言ったら、簡単に辞められた。

そんな弾かなくなったピアノも、高校生になり学年一可愛い女子が泊まりに来てくれた日の夜に、自ら音を発した。

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