第17話 違い棚
母屋は、統一さんが材木から選び抜き何年もかけて乾燥させて集めた。子供達が並んで腕を廻してやっと手が繋げる位太くて立派な大黒柱も、鳳凰が彫られている見事な欄間も、残念ながらまだ建てている途中で、統一は他界した。
大工らは、一家の大黒柱を失い女系家族になった竹平家に、違法な程の金額を提示し、払えないなら家を仕上げない、と、脅した。統一が元気なうちは、ヘコヘコヘコヘコ頭を下げて仕事を貰っていたのに、何と醜い事か、これが本当の手のひら返しだ。身体が弱くて病気ばかりして寝込んで居た祖母も、痛みに耐えながら立ち向かわなくてはならなくなった。統一の会社を継ぎ、中学生の娘達を養いながら、浪江さんや会社を手伝いに来てくれた弥生さん夫婦と共にやり繰りした。しかし、強欲な大工らは、職人としてのプライドなど微塵も無く、母屋の二階に在る母達の部屋などもやっつけ仕事としてベニヤ板など安い材料で作り終えた。
私が幼い頃は、暗くて長い渡り廊下だったり、階段下の箪笥に飾り棚があり小芥子や人形が飾ってあって、不気味な感じがして、突き当たりのトイレまで遠いし、トイレの時はいつも妹に付いて来てもらっていた。
「亜希、いる?」
トイレの中から確認する。
「いるよ~。」
妹が返事をする。妹は物怖じしない活発な子供だったし、友達も沢山いた。あまりにも活発過ぎて、祖母の言うことを聞かずに出掛けてしまう為、祖母からは、尻切れ蜻蛉の極楽蜻蛉、と言われていた。今の時代みたく携帯電話など持っていなかったので、連絡の取りようが無かったから、心労が絶えなかったのだろう。妹の頭に祖母が電話帳を落とした事は、今でも鮮明に覚えている。
母は華道の看板を持って居て、床の間に季節の花を活けるのだが、違い棚は、祖母のスペースらしく、鴨や狐など動物達の剥製が飾ってあった。孔雀の羽の横に、紫色の組み紐の様な物で、きつく十字に絞められて御札の様な物が張られている、丁度お正月に出てくる御節を容れる器位の大きさの、桐の箱が置いてあった。中身を気にした事も無かったが、姉弟でかくれんぼをしていて、小さかった弟は違い棚の下にかくれられるかと思い、頭をぶつけて額を切ってしまった。その時、弟の額から血が桐箱の蓋に一滴落ちた。スゥと落ちたはず血の跡が桐箱には全く無く、一瞬で消えた。ぎゃぁとぶつけて泣いた弟に駆け寄ったと思った祖母は、弟を通り越して桐箱へ。
「あぶらなんだ、あぶらなんだ。」
「何て?」
私はそんなに素早く動ける祖母を見た事が無かった。母も台所から飛んで来て、弟を抱き抱えてそのまま父に車を運転させて病院へ行ってしまった。帰宅した弟は、丸い平たい赤い色のキャンディーを右手に持ち、左の額には大きな白いガーゼが貼られていた。四針縫ったのよ。針?お裁縫みたい。
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