第34話 心が折れそうです
「すまない。待たせちゃったね」
ゴン太さんがやって来ました。
グレーのサファリハット、ラフなTシャツにカーゴパンツ、厚い胸板や太い腕が隠せていない。元々、マスコットよりも野獣よりのゴン太さんに、とても似合っている。隣にいる大柄の女性はもしかして……。
「まだ、約束の時間前だ。俺たちも着いてからそんなに待っていない。小夜さんもお久しぶりです。暑い中、ここまで来るのも大変だったでしょう」
雲助さんが丁寧に挨拶する。
やっぱり、ゴン太さんの隣の女性は、話で聞いていた奥様の小夜さんだ。マホガニーのパンツにノースリーブのTシャツ、薄い緑かかったシアーシャツを羽織り、つばの広い帽子、厚底のサンダルといった装い。
ただ、素材の違いが段違い。目鼻立ちがぱっちりくっきりなのに加えて、メリハリのあるスタイル。大柄な身長の上、ヒールの高いサンダルを履いても、ゴン太さんと並ぶとバランスがよく、とてもお似合いの夫婦です。
今まで気付かない振りをしていたけど、魔法使いのメンバーは、元々の素材が良すぎる。普段着でさえ、モデルの様に着こなし、その場をお洒落空間にしてしまう。
モブ娘の私が、ちょっとお洒落な格好をしていても、場違い感が凄い。
山田くん、早く来て。心が折れそうです。
「はじめまして、あなたが鶫さんね。主人がよく褒めるから、どんな方かと思ったら……清楚な服装に、知的なメガネっ娘。ああ、私の心にキュンキュンくるわ。あなた、この娘をお持ち帰りしても良いかしら?」
挨拶を返す間もなく、いきなり抱きついてきた小夜さんは、調度、顔の位置にある凶暴なお胸に埋もれて息が出来ない……。
「皆さん、お待たせしました。試合は予定通り、十一時から始まります。今から確保しておいた席に案内します。細井先輩の奥様ですか? はじめまして、山田光太郎と申します。今日はよろしくお願いします。それと、そろそろ鶫さんを解放してあげないと可哀相ですよ」
「あら、やだ。鶫さん、ごめんなさい」
あっさり昇天した私はぐったりしていた。
「サト先生、大丈夫ですか。歩けますか?」
心配そうに覗き込む山田くんは、白い歯をキラキラさせている。そして、私は思い出しました。山田くんもあっち側の住民だったことに……がくっ。
精神的にダメージを負った私を余所に、確保してくれた内野席に案内されました。
影がない。想像していた以上に暑いです。私と小夜さんは日傘を差して、直射日光を遮ります。
グランドに近い下段では、母校のブラスバンドが応援の準備をしています。後輩たちは元気だなと、ぼーと見ていたら、北壁さんが下でビールを売っていたから、飲もうぜと言い出した。
「ちょっと待った。この灼熱の中で後輩たちが試合を始めようとしているのに、応援する前からビールを飲もうとしているのですか。不謹慎です」
私がぷんぷん怒っていると、
「だって、こんなに暑いんだぜ。この中で冷えたビールは美味いに決まっているだろう。それに、売っているってことは、飲んでもいいってことだろう」
北壁さんは悪びれもせずにへらへらしている。
「まあまあ、もう少しで始まりますし、我が母校が先行です。得点が入ったら、お祝いで飲みませんか」
山田くん……我が母校が得点できるとは思えません。相手は甲子園常連の帝京高校ですよ。
それでも、落とし所としては問題ない。
頑張れ、後輩たちよ。
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