第33話 お洒落して球場へ

 球場に着きました。遠くに東京オリンピックの開会式で使われた、国立競技場が見えます。大きい……本当に木造なのか? 木の色はしているけど。

 七月末とはいえ、死ぬほど暑いです。考えてみたら、普段この時間帯は、会社のエアコンの効いた室内でお仕事中だし、休みの日は一日中、これまたエアコンを効かした家から出たことがない……真のインドア派は季節は感じるものでなく、過ぎ去るものなのです。

 昨日は山田くんにお洒落度合いを脅されたが、今の私に隙はない。少し前から、可愛い服を買い集めていたのだ。

 白いロングスカートにアクアマリン色のドルマン袖のプルオーバー、これなら私の貧相な体型を隠せた上、お洒落な雰囲気が出せる。

 ちょっと大人なデザインのサンダルに、花柄のリボンが可愛いカンカンハット。コンタクトレンズは怖くて着けられないので、トレードマークの丸眼鏡もバッチリ装備している。

 我ながらバッチリである。


「あっ、ツグミンが来たよ。こっちこっち。随分、お洒落さんだね。見違えたよ」


 待ち合わせの入口に、満面の笑みの夏芽さんと北壁さんと雲助さん?がいました。

 白と黒のメッシュキャップ、カットソーのデザインTシャツ、デニムのスリムパンツにスニーカー。特別なところは何ひとつもない普通の格好なのに、夏芽さんの七頭身の(男性としての)スタイルの良さを目一杯引き立てている。

 何故だろうこの敗北感。

 

「漸く来たな。後はゴン太だけだな」


 トレードマークのスキンヘッドにはダークグレーのハンチングベレー帽、薄いブラウンレンズのサングラスに、南国の植物をデザインしたアロハシャツ、白のパラシュートパンツ、そして、値の張りそうなサンダル姿の北壁さん。

 一見、チンピラのようでも、洗練されたスタイリッシュさは上品な印象しか湧かない。

 身長が低くても(メンバー比)、肌の綺麗さと整った顔立ちは、幻の美女としての気品を醸し出している。


 そして、木陰で本を読んでいる雲助さん?

 紺色のシャツに黒のスラックス、革のドレスシューズ、シャツの色に合わせたミックスブレードの中折れハット。違うのはいつものフレームレスの眼鏡は掛けていない。髪もきっちりセットされておらず、自然に流している。前髪が垂れている姿は、普段より若く見えます。

 徐ろに本から顔を上げ、こちらを見た。


「ああ、ツグミンか。私服のツグミンは大人っぽいね。その服、とても似合っているよ。もう少し待ってくれ。直ぐにゴン太が来る」


 会社での枯れた雰囲気はなく、どことなく夏芽さんに似た、柔らかく魅力的な顔でにっこり笑う。


「夏芽さん、夏芽さん、雲助さんが可怪しいです。眼鏡を掛けていません。枯れていません」


 いつもとは違う、甘い雲助フェイスにパニックになって、変なことを口走る。


「もともと雲助はこんな感じだよ。最近の歌会がスカしていて、気持ち悪かったくらいだ」


 夏芽さんはカラカラ笑っている。


「雲助は仕事が嫌いだからな。嫌な仕事をさっさと終わらせて帰っていたら、出来る奴と勘違いされて、役職を付けられ、仕事を増やされちまったら、そりゃ、枯れもするだろうよ」


 北壁さんがやれやれと嘆いている。


「みんな、非道いな。俺はそんなに枯れているか」


 雲助さんの自称が俺になっている。普段は僕と言っているのに、時々、俺になっているのが気になっていたのです。

 なるほど、こちらが素なのですね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る