第26話 短歌の時間②
珠からは小さな火花
夕凪の煙が染みてしゅと終わる音
「線香花火の火花から出る煙が染みて、目をつぶった拍子に玉が落ちる音がした、シンプルだけど、訴えかける力がある歌だね。
結句の『しゅと終わる音』がいいね。線香花火の火花の玉が落ちる、小さく音がするところを切り取るのは、とても詩性があるよ。
気になる点は『夕凪』かな。花火を楽しむなら、普通は夜にするはず。でも、夕方の無風の時間を意図しているのは、何故だろう。
だけど、物語を感じる。
ひとりかふたりかで解釈が変わるが、そこは読み手に任されている。共通するのは、関係の終わりを示唆していることかな」
雲助さんが褒めてくれた。すごく嬉しい。
「夕凪は意図して入れました。昼と夜の境目の無風の時間帯。波風は立たないが、心もさざめく事もない関係を象徴しています。煙たくされていることを知り、終わりの音を聞いたとイメージしています」
「サト先生は腕を上げたなあ。蛙のポンポコリンの歌を詠んだ、同一人物だとは思えない」
山田くん、昔の黒歴史をバラすな。
「なんだい、その『蛙のポンポコリン』って」
案の定、夏芽さんが食いついて来た。
「確か、青蛙ま……「昔の話はそこ迄にして、この歌の感想を教えて下さい」
慌てて、山田くんに被せたが、誤魔化せるだろうか。
「まあ、いいか。あとでツグミンには内緒で教えてね。恋の終わりの歌か……相変わらず恋多き女だね」
「夏芽さん。誤解を招く言い方はやめて下さい」
「サト先生は可愛い眼鏡女子だから、やっぱりモテていたのか。会社でも隠れ美女として噂になっていたし……既に弄ばれていたとは」
「山田くん、もっと誤解される言い方はやめてね。誰とも付き合ったことがないから。弄ばれていないから」
「かっかっかっ、俺も協力しておいたぞ。
噂のあの娘は、眼鏡取ったら綺麗なのかなんて聞く、間抜けな奴がいたからな。
素っぴんであれだからな、ちゃんと化粧したら、高嶺の花過ぎて、声も掛けられないぞと返しておいたぞ」
北壁さん、男性社員の露骨な視線はあなたのせいでしたか。少し反撃してやる。
「そういえば、あの話はどうなりました」
うっ、北壁さんと夏芽さんが同時に呻いた。
「現在進行形で、どんどん面倒くさいことになっている。今はヨッシーと結婚している話にすり替わった」
何でそんな話になったのか。
夏芽さんが遥か遠くを見つめている。
「こいつ、本当に何も考えていなくて。場当たり的に話を膨らませるから、どんどんドツボに嵌まって、身動きできなくなっている。正直、勘弁してほしい」
北壁さんは心底げんなりな顔をしている。
本当にお疲れ様です。
「ということで、この話はまた今度ね」
あっ、誤魔化した。
「よし、前座はここまでとして、メインイベントの始まりだ」
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