第25話 短歌の時間①(修正版)

夏帽子は眩しきしろ

駆け回る子どもは遊び若草色へ



「子供あるあるですね。夏帽子が若草色になる変化に躍動感があります。でも、夏帽子の元の色が白だと、女の子ぽいですね」


「そりゃそうだろ、お転婆な従姉妹の実話だからな。新品の帽子とスカートを汚して帰って、親からこっ酷く叱られたからな」


 ああ、これは夏芽さんのことだな。


「あん時はひどい目にあった。家族ぐるみのキャンプとはいえ、はしゃぎ過ぎて夏芽だけでなく、全員ぼろぼろの格好だった。雲助はスカしているが、こいつが一番酷くて、ヒバゴンだぁとパンツ一丁になって山を駆けずり回った挙句、着ていた服を全部どこに置いたか忘れたからな」


 それは酷い。ヒバゴンってなんですか?

 

「そうだよね。なんか綺麗な思い出風にまとめているけど、巻き込まれたのはこちらで、立ち位置が逆だよね」


 夏芽さんがプンスカ怒っている。


「お前らなあ、そう言うことはバラすなよ」


 雲助さんは、ぶーぶー文句を言っているが自業自得である。


「どうゆうこと?」


 隣りの山田くんが聞いてきた。


「雲助さんと北壁さんと夏芽さんの三人は、いわゆる幼馴染なんです。そこに細井さんこと、ゴン太さんが大学生の時に合流したのだったかな」


「合流したのは高校生の時だな。あの三人がバンドをやると息巻いて、ドラム担当として巻き込まれた」


 バンド……そんなこともやっていたんだ。

 ゴン太さんは強引に誘われて、断れなかったのだろうな。


「今でこそ大人しくなっているが、昔は雲助がリーダー格で、なんでも強引に決めていたんだ。

 夏芽が男装を好むようになったのも、バンドを始めた頃かな……」


「嫌だな、細井先輩。男装だなんて、いくらなんでも失礼ですよ。……えっ、女性? 本当に? 僕はてっきりサト先生が推しているホストかと……」


 どんな目で見ていたんだ、山田くん。後で話を聞かせて貰ってもいいかな。


「山田くんは営業部だから知っていると思うが、僕の名前は細井寛太、皆からはゴン太と呼ばれている。命名は夏芽、某子供番組のキャラクターに因んでいる」


 ゴン太さんは簡潔に自己紹介する。


「改めて宜しくね。では、短歌いくよ」



ミント・ジュレップの影にLemonの訳本

鹿毛かげの新馬が駆け抜けた夏



「なんかハードボイルドですね。格好良い単語が並んで、独特の世界があります。でも、上句と下句の繋がりがよくわからないです」


「檸檬といえば、梶井基次郎。ミント・ジュレップといえば、ケンタッキーダービー、競馬。鹿毛の名馬といえば、近年ではアーモンドアイかキタサンブラックか……。まだ読みが甘いか、まだ仕掛けがありそうだな」


 北壁さんがうんうん唸っている。

 キタサンブラックといえば、大御所の演歌歌手の馬で、G1レースで勝つ毎に『まつり』を唄って話題になってたね。


「競馬に詳しくないと分からないと思うから、ネタばらしをするね。

 鹿毛の名馬といえばアーモンドアイ。G1重賞レース9勝の史上最多記録保持の牝馬。でも、この馬のことではなく、初戦の一番人気だったアーモンドアイを押さえて、見事に勝ちきったニシノウララのことなんだよ。

 このニシノウララなんだが、アーモンドアイに勝った新馬戦以降、一勝しかできなかった。アーモンドアイが重賞獲って活躍するたび、勝ちを信じたファンを裏切り続けた、本当に酸っぱい爆弾のような奴だったんだ。でも、なんか憎めなくてね……面白い馬だったよ。

 後で調べてみたら、ニシノウララも青が付くけど鹿毛だったんだ」


 とても懐かしそうなゴン太さん。この店にミント・ジュレップがあれば頼むのに……覚えておいて、お洒落な店で頼んでみよう。


「この手の歌は、歌会でしか真価を発揮できないね。作者の想いを聞かなければ、『Lemonの訳本』の意味が分からない。雰囲気に酔うことも出来るが、WEBやSNSでは評価されない歌だよね。

 投稿を目的としなければ、こういった遊びができると、覚えておくと良いよ」


 雲助さんが優しく教えてくれる。なるほど。


「次は私ですね」

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