第14話 短歌談義①
「前回の疑問を放置せずに推敲して、自らの考えを当ててくるなんて予想外だった。酔った席での戯言だから、具体性も乏しかったのに、見事な返しだと思う」
「推敲した二首も見事だ。詠み手の意図が明確に伝わり、僕が好きなタイプの歌に仕上がっている。
ひとつ誤解してほしくないのだが、感情の言葉をぼかした歌が悪いわけではない。実際、そう言った表現を得意とする歌人もいるし、最近は減ったが、飛躍しすぎて突拍子の無い比喩を駆使する歌人もいる。ツグミンの元歌も悪くないので、場所によってはよい評価をしてくれるだろう。ツグミンの意図を明確にするならば、『愛した日々』の後の助詞を『の』と並列にするのではなく、『は』と特定した方がよい。
添削:かなしみは五月の底で
やわらかく愛した日々は雨の囀り
ツグミンが自身で気付いたように、主客をはっきりさせれば、より意図が通りやすいと思う」
「僕にとって短歌とは、評価される文芸ではなく、伝えたい感情の表現だ。僕が正確に伝わらない表現が嫌いだからといって、ツグミンの感性を曲げる必要もない。この会の住民は、外から見れば邪流の歌を、自分の感性に任せて詠んでいるに過ぎない。楽しむことが唯一の信条だからね。好き勝手な放言に気を病む必要なんてないんだ」
「わからない事があればどんどんぶつけて欲しい。僕たちはそれに応える努力をしよう」
「そうだよ、ツグミン。雲助がいい感じにまとめているけど、昔は新聞や短歌誌に投稿しては、不採用だった愚痴に付き合わされて、ツッコミを入れる会だったのが、いつの間にか歌会になっただけだから、気楽にいこう」
夏芽さんがお茶目にウインクをする。
「夏芽……今、それをいうか」
「そうそう、よく鼻水垂らして、どうせ俺はヘッポコ丸だとか、ほざいていたからな。付き合う身としては大変だったぜ」
「話を盛るな。ヘッポコ丸は言ったかもしれんが、鼻水は垂らしていない」
「雲助はヘタれているのが通常運転。格好つけても似合わない」
「う、うるせい」
子供の頃を知る親戚に、いじられる父親がこんな感じだった。ちょっとかわいそう。
「私の場合は意図してぼやかしたわけではないので、言葉の意味をもう一段階詰める、今回の事はとても勉強になりました。それに推敲した歌の方が好みに合います」
やっぱり短歌は面白い。
「そんなツグミンに、面白い話をしよう。
星野しずるって、知っているかい?」
夏芽さんが爆弾を放り込んできた。
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