第15話 短歌談義②

「歌人の名前ですか。ちょっと知りません」


「そりゃそうだろ。話題になったのは2010年頃の話だから、ツグミンはまだ小学一二年生だ。

 星野しずるってのはな、AIなんてまだない、昔のコンピューターによる短歌自動生成プログラムのバーチャルアイドルの名前だ。ボタンをクリックすれば、雰囲気のある短歌をばんばん作ってくれるすぐれものだ。唯一のルールは、発表する時は星野しずると明記すること。最盛期にはあらゆる所から、一年で一万首以上の短歌が発表された」


 北壁さんが説明する。


「話題なった原因は、このプログラムを作ったのが歌人の佐々木あらら氏だったこと。短歌の基本形、57577を崩さず、三十一音を二十種類の構文に分けて、約550の語彙の中から無作為に選んだだけ。AIみたいに学習すらしない。だが、そんなんで詩的表現の飛躍を多用した短歌が出来てしまう」


 本当だろうか? いくらなんでも、短歌はそんな簡単なものじゃないと思う。


「その顔は信じてないな。じゃあ、クイズだ。次の短歌の中で、星野しずる作のものを当ててみな。情報サイトに載っていた代表作を混ぜるから、ちょっと待って……よしこれでいいだろう。


1.よこしまなあなた自身にあこがれる

  はるかに遠い歌のどこかで


2.永遠に向かって夏の人々を拾い上げれば

  僕だけの夢


3.真夜中の真空管を集めたら

  まだら模様の群れになったら


 どれだと思う?」


 北壁さんのスマホのドキュメントに書き出された短歌を見る。

 最初の感想は……えっ、だった。どれもひとが詠んだ歌に見える。これがプログラム? このうちのどれか一つ、いや、北壁さんはへそ曲がりだから、ひとの歌が一つかもしれない。

 ふふん、騙されないよ。


「ひとの短歌は1番です。2番と3番が星野しずるだと思います」


「何でそう思った」


「正直言って歌そのものからは、人かコンピューターかの区別がつきませんでした。ポイントは漢字です。2番と3番は語彙のまとまりを感じます。1番だけ平仮名を多用して、やわらかい表現の意図を感じます」


 どや。


「ぶーーーー、外れ。答えは全部、星野しずる作でした」


 北壁さんの方が一枚上手だった。


「わからないもんだろう。こんな歌がクリックするだけで瞬時にぽんぽん詠む。流石にほとんどが凡作だが、時々、このレベルの一首が出てくる。そして、これが世に出た時の衝撃は凄まじかったんだ」

 

「則ち、コンピューターが簡単に作ってしまう、短歌って何だということだ」


 雲助さんが言葉を引き継いだ。


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