第5話 短歌の時間①
こきゅこきゅこきゅと、一気に飲み干しました。
勿論、私じゃないですよ。雲井主任です。
私はレモンサワーで喉を潤す程度で納めています。前回と同じ轍を踏まない出来る娘なのです。
雲井主任は生中を二杯注文しています。きっと又、一気飲みして、店員さんに呆れられるに違いありません。
「よし、取り敢えず、駆け足で出来上がったぞ一発目を始めるか」
まばたきを忘れた過去のフォトデータ
ゴミ箱行きのただの週末
「何とも思わせぶりな歌ですね。昔の彼女さんとの思い出でしょうか。そんなフォトデータが不意に出てきたら、穏やかな週末は送れませんね」
「雲助が恋愛絡みの歌を作るなんて珍しいな。鶇ちゃんの影響か」
夏芽さんがふ〜んと澄まして言う。
「そんなんじゃないけど、思いついたんだよ」
「相変わらず雲助の歌は女々しいな。そんな過去データ、お前にゃないだろう」
「煩いな。確かに俺にはそんな写真はないな、俺にはなっ!」
「てめえ、あのことをバラしたらぶっ殺す」
「ぶふっ!」
ああ、静かなるゴン太さんが吹き出している。
「えっと、雲井主任。何の話ですか?」
「山小屋の怪談は知ってるかい。経理課には居るはずのない職員がいるのさ。会社の七不思議みたいなものだよ」
「???……夏芽さんも知っているのですか」
「知っているけど言いたくない。僕の自尊心が存在を許せないかな」
「そんな奴はいない。絶対にいない。君は知らないままでいい」
「?????」
「鶇さん、鶇さん」
静かなるゴン太さんが画像写真を見せてくれる。
そこにはでれでれした高杉社長に酌をする黒髪ストレート、所謂姫さまカット絶世の美女が写っています。肌が綺麗っ!まつ毛長っ!目元の涙ぼくろが良いアクセントになっている……同性として羨ましい。んっ、どこかで見たような。
「ああっ、馬鹿ゴン太。てめえ、バラすんじゃねえ」
対面の萩田課長補佐がスマホを奪い取ろうとするのを、ひょいひょい躱しながら、画像をガン見する。
「えっえっえー、これって萩田課長補佐ですか。なんて羨ましい美しさ……そっち系の人だったんですか」
皆さん、がはは、わはは笑っている。
「ちっ、ちげえよ。会社で忘年会があった時、経理の女の子に面白がられて、化粧させられたんだよ。思いのほか出来が良くてな、俺も酔っていたから調子に乗って、制服やら、かつらやら身に着けて、酌して回っていたら、たまたま社長が来て……あのセクハラ野郎は一生許さん」
「なんという美の無駄遣い……そういえば、夏芽さんとは幼馴染なんですよね。……お似合いかも」
ああ、私の妄想心に火が着いてしまった。新郎が夏芽さん、新婦が萩田課長補佐……。
ぶふぉっ、鼻血が出そう。
飛び火した夏芽さんが慌てている。
「「人生を諦めない限り、それは絶対ありえない」」
「「こいつの存在は、俺の(僕の)自尊心の問題だ」」
お互いに指差し、一言一句、息もぴったりです。でも、突っ込みを入れてはいけない気がします。
雲井主任、笑っていないでフォローして下さい。
「そんな話は置いて、次は俺の番だ」
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