第6話 短歌の時間②
街中が翠雨の吐息
悲しみは枕に残る黒髪の歌
「街中が雨の降る中、想い人は枕に黒髪を残して帰ってしまった。悲しい気持ちを歌った
「全く違えよ。こいつは黒髪の哀しみ歌だ」
「???」
「鶇ちゃん……ヨッシーは抜け毛の歌しか詠まないんだよ。本当に未練たらたら」
「うっせいな。短歌は心の衝動を詠むのが一番だろうが。俺にとって朝起きて、枕に髪が散っていたら、それはこの世の哀しみだ」
「どんだけ自意識過剰なんだか……それが嫌で全部剃ったのだろう」
雲井主任がため息をついている。
静かなるゴン太さんも頷いている。
「お前らには若ハゲの気持ちが分からないんだよ。生えてくる毛髪より、抜けていく毛髪の量が上まっていく恐怖。日々、明らかに広がっていくおデコ。洗面台の鏡と手鏡を使わないと見えない領域の地肌さんこんにちは。毛がある奴にはわからねえ哀しみがあるんだよ」
「そうか、何だか悪いな」
ゴン太さん、そんな淡々と……。
「そうかじゃねえ」
「次は僕の番だな」
「簡単に流すなっ!」
夏が立つ
極点の謎の微笑みにとけてしまう柴犬マルオ
「愛犬の歌ですか。可愛らしさが爆発です。小首を傾げて舌を出している姿が見えます」
画像は無いのてすかとゴン太さんにおねだりすると、動画を見せてくれた。か、可愛い……。
「ゴン太よう……結句の『柴犬マルオ』って何だよ」
萩田課長代理が突っ込みをいれる。
「マルオは飼い犬。凄く可愛い」
「そんなのは知っているんだよ。『極点の謎の微笑み』についても聞きたいのだが」
「あっ、柴犬って、犬種の中では珍しく笑っているような顔をしますよね。それを微笑みの謎に掛けているのかな。愛犬とはいえ、何を考えているのか分からない時があるから……可愛い」
「鶇さんの言う通り」
「動画で籠絡してんじゃねえ」
「僕はこの歌好きだけどな。結句の『柴犬マルオ』も味があるじゃないか」
夏芽さんも一緒に動画を観て、きゃいきゃいしている。
「確かに……普通なら使わない方法だが味があるな。面白いと思うよ」
「なんだよ。違和感を感じているのは俺だけかよ」
「それじゃあ、次は僕だね」
さがなき吐息は罪なり
情炎の終わりなき火は
「夏芽はぶれないね」
「魅惑のエロ短歌先生と呼んでくれ」
「はいっ、エロ短歌先生。上句の意味がわかりません」
「何でもかんでも古語を使っているから、伝わらねえ言葉が出るんだよ。わかんねえのは『さがなき吐息』のところだろ、教えてやれよエロ短歌先生よお」
「鶇ちゃん、『さがなき』は意地悪の意味だ。ざっくり意訳するとね。意地悪な溜め息は罪だ。情事の終わりなき欲望は薔薇色の喘ぎってとこかな」
「ぶはっ、夏芽さんがこんな濃厚な情事に勤しんでいるとは……」
「ちょ、ちょっと鶇ちゃん」
「ぶははは。こいつが喘いでいたら、男同士の情事じゃねえか」
「ヨッシー。ちょっと非常階段に行こうか」
「何を言っているのですか萩田課長補佐。それこそが至高の愛じゃないですか。……尊い」
「……」
「尊い歌の次は、恥ずかしいですが……私ですね」
自分の番だと、やっぱり恥ずかしいな。ゆっくりと飲んでいたレモンサワーをこきゅこきゅと飲んでしまう。よし、いくぞ。
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