第3話 初顔合わせの面々
前回と同じ居酒屋の予約した個室に案内されています。雲井主任は電話を一本入れてから行くから先に行ってくれと、会社から放り出されてしまいました。
夏芽さんが先に着ていると心強いななんて考えていたら、そこにはでっかい熊がいました。
ちょっと赤茶の入ったくせ毛の髪に、溢れ出て来そうな立派な口髭と顎髭を蓄え、上野の西郷どんもびっくりな貫禄のある大きな身体。私は小柄とはいえ154cmあります。その私より頭一つ、否、二つ分は高いです。
夏芽さんのメールで、前回不参加だったメンバーの特徴は、大人しい熊さんと書いてあったので、勝手にクマのプーさんをイメージしていましたが、がっつり熊でした。
「はじめまして、私は前回から歌会に参加させてもらっている鶫里子といいます。今日は宜しくお願いします」
初対面の挨拶は大事です。
「雲助から聞いているよ。僕は細川といいます。これでも営業、そして雲助とは同期だ。色んな意味で凄い娘と聞いている。今日は宜しく」
雲井主任、どんな伝え方をしたんですか。後で問い詰める必要があります。
「もしかして、営業のエースと噂の細川さんですか?お会いできて光栄です」
「ああ……えっと、そうかな?」
「…………」
「…………」
会話が終わってしまった。ええ〜、営業ならもっと会話をぶっこんでよ。気まずいよ。
あっ、第三の男がやって来た。雲井主任かな?
「なんだなんだ、ここはお通夜か。ゴン太がいるじゃないか。誰だ?このちんちくりんは……」
開口一番にちんちくりんの扱いをされてしまいました。
やって来たのは、ハゲなんてかわいいものではなく、全剃りのスキンヘッド。初めて目の前で見ましたがインパクト大です。私よりちょっと背が高い、162、3cmくらいでしょうか。色眼鏡をしてきて、口調もチンピラ風ですが、この方、もしかして噂の北壁さんでは……。
顔を引きつらせつつも挨拶せねば。
「はじめまして、私は前回から歌会に参加させてもらっている鶫里子といいます。今日は宜しくお願いします」
さっきと一言一句、まったく同じ台詞になりました。
「おう、俺は経理の萩田だ。雲助と夏芽とは小学生の頃からのくされ縁だ。話は聞いてるぜ。お前、雲助の歌に駄目出しして、泣かせたんだってな、やるな」
ああああ……やっぱり、萩田良雄こと、経理の北壁だ。曖昧な経費は一切認めず、難攻不落の北壁と恐れられている。赤鬼の異名を持つ五味部長の百万円の謎経費すらも、口調こそ丁寧だが一切認めず、男泣きさせたという、生きる伝説の萩田課長補佐。スキンヘッドの絶壁とは聞いていたが……出会ってしまった。
というか、綺麗な電球頭で全く絶壁じゃないし、何気に肌が綺麗、口調も丁寧どころかチンピラ風だし、噂と全然違う。
「私、そんなことしていません。風評被害です」
「かっかっかっ、細かいことはどうでもいいんだよ。あの雲助の短歌に突っ込みを入れて凹ましたのがいい。奴等、俺の短歌をハゲ短歌と馬鹿にしやがるから、いい気味だ。そうだ、お前も頭剃ってスキンヘッド同盟を組めば数のうえでも負けねえ」
「どこのアイリーア大尉ですか。嫌です」
「スター・トレックか……そんな古いSFをよく知っているな」
「私の父がトレッキーを自称していましたから、散々DVDを観させられました。それに、スターウォーズはクソだと言っています」
「お前の父親とは分かり合えないな」
「私もです。ところで、細川さんのことはゴン太と呼んでいましたけど何でですか」
「ああっ、ああこいつのフルネームは細川寛太って言うんだ。見た目がまんま野獣だからな、夏芽がゴン太とあだ名を付けた。昔の子供番組でそんなキャラクターがいただろう」
「んん~、あれかな最終回でお兄さんが喋ったとかなんとかのですか」
「これだよ」
細川さんこと静かなるゴン太さんが映像を見せてくれた。可愛いというより愛嬌がある。似てるといえば似てるが、本人はもっと野獣より
「僕はこのあだ名を気に入っているから、鶇さんもそう呼んで……」
「ええー、会社の先輩なのにそんなフランクに呼べません」
ああ、見るからにしょぼんとしている。
「本人が呼べといっているんだから、呼べばいいんだよ。大体、細川なんて名前は、こいつに合ってないだろうが」
確かに……って、違う。でも、いいのかな。
「……ゴン太さん」
「はい、何でしょう」
なんかとても嬉しそう。このまま番犬としてお家に連れて帰りたい。
「あと、こいつ新婚だから、連れて行っちゃ駄目だぞ」
変なところで鋭い萩田課長補佐に釘を刺される。
「けっ、結婚しているのですか。魔法使いじゃないなんて……」
「俺達も寝耳に水だったぜ。なんでも出会って二ヶ月で結婚したんだよ。ゴージャスで美人な奥さんに一目惚れされて、めちゃくちゃアプローチされたらしい。こいつ、見た目に反して押しに弱いから」
「小夜は小さくて可愛いから」
優しくにっこりと笑う。奥さん、小夜さんっていうんだ。身長はどのくらいなのかな、小柄というならリアル美女と野獣かも。愛されていて羨ましい。
「あの奥さんを小さいというのは、おまえくらいだぞ。身長が180cmはあっただろう。俺なんか見上げたぞ」
「そうか?」
「そうかじゃねえ……まったく」
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