二〇二四年五月の会 チンピラと熊さん

第2話 五月のはじまり

 五月は手入れの始めの月です。

 今でこそ袖で隠れている二の腕のぷにぷにを、今からでも始めないと、致命的なことになります。ぎりぎりです。

 モブ娘である私、鶇里子は、こういった手入れにも手を抜かない、出来る娘なのです。

 ただでさえモブ顔なのに、あの娘の二の腕は子豚ちゃんだとか、ムダ毛がキウイ、毛穴がパパイヤマンゴーの種だねとか、指を差されたら軽く死ねます。恋愛なんて絶望的です。

 努力は実を結ぶ。今は実の種の欠片もないけど、未来は信じて動く事が必然なのです。ここはとても大事、試験に出るよ。


 そう、鶇は行動しました。

 四月に初めて歌会に参加したのです。いつもなら腰が引けて悩んだ末に保留となり、フラフラダンスを踊っていました。

 だけど一念発起し、職場の指導役である雲井大輔主任の主宰する小さな歌会「魔法使いの会」に初参加、正直、これは歌会ではなく、飲み会?とも思わなくもないですが、素敵な歌と酔いトークのとても楽しい夜でした。

 後半はよく覚えていないのが残念ですが……。


 そうそう、歌会では運命の人に出会いました。

 雲井主任のいとこの雲井夏芽さんです。

 顔良し、気配り良し、トーク良し、飲みっぷり良し、色気良し、出会ったのは一日ですが、鶇の妄想心を鷲掴みです。一気に理想像の基準が引き上がりました。妄想するだけで幸せ……本当に男だったら……もっと幸せ。

 でも、ありよりのありです。


 因みに上司で主宰の雲井主任は枯れた前菜です。諦めたらそこで試合は終りの格言の通り、恋愛や結婚を諦めると、どうなるかの見本の様な有り様です。

 全体的に老成といいますか、達観しているというか、全てにおいて覇気がないのです。まだ三十歳なのに四十代に見えるのは問題があります。

 身体全体の細胞が諦めという名の、悟り遺伝子を発動しているに違いありません。

 ちょっと前までぼんやり考えていた自分の将来を見ているようで、生活を改めるきっかけとなりました。ある意味、先生と言えるでしょう。


 私の魔法使いの見習いが取れるまで、後七年あります。とはいえ油断はできません。可愛かった幼稚園児の姪っ子が、小学校を卒業してコギャルになるまでの間です。時間とはぼんやり地蔵のようなもので、十年経っても二十年経っても、変わらず立っているものですから……気をつけないと、とつくづく思う。

 とにかく私は油断しません。隙もなく、準備も怠りません。どんな状況でも対応できるシュミレーションも完璧です。どんと来いです。


 今回は欠席したメンバーを含めて全員揃います。

 知らぬ間にアドレス交換していた夏芽さんの情報によると、大人しい熊の人とハゲのチンピラの人らしい。本人達もよく自虐ネタに使っているから、遠慮なく突っ込めばいいよと夏芽さんはメールに書いてありましたが、どうなんでしょう。

 凄く楽しみです。

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