第17話 推測、原因判明


俺はダンジョンの入口にやってきた。


いつものようにダンジョンに入ろうとすると職員に止められた。


「待たれよ。異世界人」


いつも俺の検査をしてくれる職員だ。


既に軽い世間話をするくらいの仲になっていたのだが、それだけに止められたのが少しショックだった。


「あれ?あはは……今日はなんか引っかかるようなことしましたかね?」


「すまない。ダンジョンには入ってもらって構わんのだが」

「だが……?」


「ひとつ聞きたいことがあってな」


「聞きたいこと?」

「俺はいつもここに立っているからお前が長時間ダンジョンに入っているのは知っているのだが、いつも何をしているんだ?」


「レベリング」


俺がダンジョンに入ってやることなんてひたすらモンスター倒してのレベリングだ。


それ以外にない。


「君はまだEランクだろう?」

「はい」

「今レベルはいくつ?」


「9」

「9?!!!!」


驚いてた。


なにをそんなに驚く事があるんだろうか?


レベル9なんて弱いと思うんだが……。


「信じられん。もう9なのか?」

「遅いくらいじゃないんですか?」


そう答えてみたら職員は苦笑いしてから聞いてきた。


「今からまたレベル上げするのか?」

「もちろん」

「やめておいた方がいいぞ」


「なぜ?」

「この世界では【経験値減退システム】というシステムが存在する」


初めて聞く言葉だった。


(そんなシステムがあったなんて知らなかったな)


「初めて聞きました」


「読んで字のごとく特定の条件を満たせば各種行動で得られる経験値が減退するというシステムである」


なんとなく察した。


「だからか、最近レベルの上がりがあんまり良くないと感じていたのは」


「おそらくそうだろう。倍率は50%~99%だ」


「解除の仕方は?」


「ない。今まで通りレベルを上げたければ11階層以上に向かうしかないな」


だが、今の俺には11階層以上に行く権利がないので向かえない。


「効率悪くレベリングするしかないのかな……」

「素直にランクが上がるまで休んだらどうだ?君はいつも頑張っている」


ポン。


肩に手を置いてくれた職員だが。


俺は首を横に振った。


「まだまだです。まだ足りない」

「だが……」


それ以上は無駄だろうと言いたげな職員。


「減退する条件について詳しく聞きたいんですけど、いいですか?」


職員は紙に細かく条件を書いてくれた。


その間に俺は呟いた。


「こんなシステム聞いたことないな……」

「俺もEランクの冒険者に説明なんてしたことないよ」

「ご、ごめんなさい。それって俺が常識知らずってことですよね?」

「んなわけあるかぁっ?!」


ビクッ。


急に叫ばれてビビってしまった。


「す、すみません……」


「君が謝る必要は無い。それよりすまなかった。そういう意味ではないんだ」


慌てたように追加で説明してくれる職員。


「本来Cランクくらいになった冒険者に説明するものだからだ。Eランクで獲得経験値に減退がかかる冒険者なんて初めて見たよ」


頭をカリカリかいてた。


(俺が傷つかないように最大限の言い訳を考えてくれたんだろうな。ありがたい話だ)


「よし、できたよ。ほれ。これが条件だ」


俺は紙を受け取ってシステムに目を通した。




【獲得経験値減退システム】


・この世界ではモンスターのステータスの合計値と自分のステータスの合計値を比較した時の差で獲得経験値に補正がかかる。


(例)

モンスターのステータス合計値が10


冒険者のステータス合計値が10


この場合は獲得経験値は1倍。いつもどおり獲得可能



しかし



モンスターのステータス合計値が10


冒険者のステータス合計値が20


このように2倍以上開けば獲得経験値は99%減退する。


1.5倍差が開けば50%減退。




「なるほど。できるだけモンスターとのステータス差は開かない方が経験値は多く貰えるってことですね」


「うむ。そういう認識でかまわない。だから既に減退がかかるほどモンスターとの差があるのならこれ以上の攻略にはほとんど意味が無い」


「……そうですか」


「安心するといい。レベル9もあれば昇格試験は簡単に突破できる。そこからは忙しくなるだろうし、最後に思いっきり遊ぶのもいいぞ」


ニッコリ笑ってそう言ってくれたが。


(不安だ、昇格試験、万全の状態で挑みたいんだよな……)


そう思ったが、俺は職員の言葉を気持ち的に無視したくはなかった。


「職員さん。ありがとうございました。今日のところは帰ります」


「あぁ、試験、頑張ってな」


頷いた。


俺は宿に帰ることにした。


職員にもらったメモを見ながら考えていた。


(職員の説明でいくと、得られる経験値はステータスの合計値の差に依存している)


ということは、だ。


「このシステムの穴、というか仕様を逆に利用できないだろうか?」


例えば……。


俺のステータスの合計値をモンスターの合計値より下回せる、とか。


そうすれば、減退の逆の現象が起きたりしないか?


(現状経験値減退のせいで特にやることは無い。ならば……)


試せることは試してみてもいいかもしれない。


なにより今の俺はステータスを一時的に下げる方法を知っている。


(首飾り、外さないとな)


俺は【カゲロウの首飾り】を外すとアイテムポーチに収納した。


そのまま宿屋に向かった。


宿屋の中に入るとすぐに声が聞こえた。


「この気配はっ?!」

「男っ?!」

「男が来たわよ?!」


それからドタバタドタバタ。


あちこちに体をぶつけながらキャトも飛ぶように走ってきた。


「な、なにをなさってるんですか?!サキュバスたちにバレちゃいますよ?!」


そのときだった。


ふよふよふよふよ。


そんな音と共にサキュバスがやってきた。


「ね〜え?キャトちゃん?そこの男の人とは知り合いなの?そんな感じだけど?」

「ひっ、そ、そんなことはございませんにゃ……」


ダラダラダラ。


顔から汗を流しているキャト。


「私言ったわよね?キャトちゃん。男が来たら私たちに知らせるように、って。また失神するくらい気持ちよくなりたいの?」


俺はサキュバスに話しかけた。


「その子を離してくれ。目当ては俺だろう?」


サキュバスの拘束が緩んだ、その瞬間。


ダッ!


キャトが俺の後ろに回り込んだ。


「イツワ様。助けてくださいにゃ」


ペロリ。


サキュバスが唇の周りを舐めてた。


「いい度胸じゃない。気に入ったわよ。人間。名前は?」


「五条 イツワ」


「イツワちゃん。来なさーい。可愛がってあげるから♡私たちサキュバス姉妹の猛攻、凌げるかしら?ふふふふふふ」


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【真面目】なことくらいが取り柄だった無能おっさんの俺、異世界ではチートレベルな真面目さだったようです。チートがない俺は努力のみでチートや才能を無自覚に凌駕する! にこん @nicon

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