第16話 見覚えはある



翌日。


俺はいつものように冒険者ギルドへやってきた。


まだ数日だが慣れたもので朝起きてここまで来るのが日課になっているほどだった。


いつもの受付嬢が対応してくれる。


(この人休んだりしないんだろうか?)


いつ来てもいてくれるイメージあるんだけど。


(まぁいっか。今日もダンジョンへ……)


「あの、イツワさん?」


「ん?」


「ランクポイントが溜まりました。そろそろランク上昇のテストを受けることができますが、どうしますか?」


(キタッ!)


目を見開いた。


やっと、次のランクに進めるのか。


「テストはいつありますか?」

「最短で3日後ですね」


(となると、3日間はダンジョンで引き続き練習ができるということか)


「分かりました。では3日後受けたいと思うのですが、どうすれば?」


スっ。

カウンターに書類を出してきた。


「こちらに必要事項の記入をお願いします。後のことは我々でやりますので」


俺は必要な事を紙に書いていった。


「では」


ギルドを出ていこう。


そう思ってギルドの扉に手をかけた時だった。


ギィッ。


(人が入ってきたか)


この扉は内開きである。


俺は邪魔にならないように横に退いた。


すると扉を開いた人物が姿を現す。


白い髪の女の子だった。


(見覚えがあるような……)


そう思っていたら女の子が俺の顔を見た。


「あっ!この前の!」


(この前……?思い出した。この世界に来て一発目に出会った聖人の女の子か)


「ここにいるってことは冒険者になったんですね?調子はどうですか?」


「ぼちぼちってところかな」


「それにしてもすごいですね。もうギルドにいるなんて」

「そうなのかな?」

「はい。皆さん、1週間は訓練所にいるのが普通です。もうここにいるってことはそんなにいなかったんですよね?」


女の子とそんな会話をしていた時だった。


女の子が謝ってきた。


「それと、ごめんなさい。この前は途中で案内ができなくなって」

「いや、気にしてないよ。用事くらいあるもんね?」

「はい。ちょうどこの前は昇格試験があったんですよ。それで、急いでて」


(昇格試験か。それなら下手に遅れるなんてことできないもんな)


「受かったの?」

「それが落ちたんですよーシクシク。だからまた受けなきゃなんですよ」

「そっか。なら次は頑張ってね」

「はい!」


女の子はそれから少しもじもじした様子で聞いてきた。


「あの、お名前教えてくれませんか?」

「イツワ」

「イツワさんですね。私はリリスと言います」


ニコッと笑って俺に名前を教えてくれたリリスだった。




今日は早めに訓練を終えた。


昇格試験についての情報を集めたかったからだ。


(やはり試験を受けるなら対策は必須だろうな)


そもそも俺は昇格試験がどんな試験なのかすら知らされていないしな。


敵は誰で、テストする場所はどこなのか、そういうのもまだいっさい知らされていない。


というわけでギルドに帰ってきた。


いつもの受付嬢に話しかけた。


「すいません、昇格試験について聞きたいんですが」

「なにが聞きたいですか?」

「どういう試験内容なのかを知りたいんです」


受付嬢はスっと紙を渡してきた。



【Dランク昇格試験】


目標:ゴブリンキング一匹の討伐

場所:天空の螺旋10階層


補足:標的のレベルは15前後

目安のパーティメンバー人数は5人



パーティメンバー、か。


「そういえばイツワさんっていつもソロで活動されていますが、パーティとは組まないのですか?」


受付嬢にそう聞かれた。


(パーティか)


実は前々からパーティという存在自体は知っていたのだが。


(俺なんかがパーティに入っても足引っ張るだけだろうなぁ)


という思考があったのでメンバー募集などには応募していなかった。


せめて、誰にも迷惑をかけないソロで実力をつけてから応募しようと考えていたのだ。


受付嬢は壁際にある掲示板を指でさした。


「今もメンバーを募集している人達がチラホラいますよ?」


「いや、俺なんかが入っても足引っ張るだけですよ。ははは、」


ガックリ。


肩を落とす。


自分で言うのもなんだけど、なんて情けないセリフなんだろうか。


「はぁ……」


ため息吐いてると受付嬢が「しまった!」という顔をして慌てて訂正してくる。


「そんなことありませんよ。イツワさんは素晴らしい戦績をお残しです。どこのパーティにだって入れますよ?」

「言い過ぎですよ、ははは。俺が無能なことなんて俺が一番知ってますよ」


現に日本じゃずっと言われ続けたわけだしな


「無能」「使えないクズ」「まだいたんだ(笑)」


みたいな言葉の数々。


今でも思い出すんだよな。


もう二度と聞きたくない言葉の数々である。


(はぁ、パーティ組むなんて、ろくな事ないんだろうな)


ガックリと肩を落として俺はギルドを出ていくことにした。

目当ての情報は手に入ったし、今日は早めに寝てもいいかもな。


俺は酒場に戻ってベッドに寝転んだ。


天井の方を向きながらいろいろと考えていた。


主にこれからのことだ。


(俺が仮にEランクを卒業してDランクに上がったとする)


ランクが変わるということはダンジョンの難易度も変わるということだ。


Dランクは今まで以上に厳しい展開になることもあるだろう。


「その時に俺はソロを続けられるか、どうか、だよな」


これが主人公最強ものの漫画ならソロでいいんだろうけど、俺は無能だ。


「そろそろパーティを組むことを本格的に視野に入れてもいいかもな……」


ということは


「足を引っ張らないようにもっともっと強くなりたい、よな」


そういえば、最近気になってたことがあるんだよな。


俺は部屋の中にあった水晶に手を当てた。



名前:五条 イツワ

レベル:9

次回レベルアップまで30EXP


攻撃力:9

防御力:9


スキル:剣術E 体術E


称号:努力の剣士見習い、勇気ある宿泊者、見えぬ者


状態:なし



今まで一日でレベルが1か2くらい上がってた気がするのに今日の上昇量が0なんだよな。


これはどういうことだろう?


単純にレベルが上がったせいで必要経験値量が増えた?ゲームではありがちだとは思うけど……。


「でも。それだけじゃない気がするんだよな……」


(う〜ん)


少し考えて俺はベッドから出た。


部屋の隅っこでウトウトしていたキャトか俺を見た。


「どちらか行かれるんですか?」

「ダンジョンへ」


キャトの顔は驚愕一色に染まる。


「今からっ?!」

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