第15話 迷宮の亡霊の噂、イツワの評価(後半視点移動)

俺はキャトと食事をしながら酒場内の会話を聞いていた。


酒場にはいろんな階級の人が集まってくる。


だからいろんな立場の人の話を聞くことができる。


まぁ、盗み聞きだから隣に座ってる人の会話くらいしか聞けないんだけど。


で、今回隣に座ったのは、会話を聞く感じ俺と似たような階級の2人組らしい。


1人が赤髪。

もう1人が青髪だった。


赤髪が口を開く。


「今日さ。ちょっと用事があって低層に向かってたんだよ」


低層というのは今俺がいる辺である。


ちょうど1階層から10階層。


このあたりのダンジョンを現地の人達は低層と呼ぶ。


「それで?」

「そしたら妙なやつがいやがったんだよ。聞いて驚け。モンスターがモンスターを攻撃してやがった」

「どういうことだ?」


「俺も分からねぇよ。モンスターがモンスターを攻撃してるところなんて見たことがないし」

「どういうモンスターなんだ?」

「それがなぁ。攻撃してる方はぼんやりとしか見えないんだ」


(ぼんやり?そんなモンスターは低層にはいないと聞いていたが……)


低層にいるモンスタはゴブリンやスライムなど弱めのモンスターばかり。


本当の駆け出し冒険者が相手できるくらいの弱いモンスターしかいないと聞いたのだが


(ぼんやりってことはゴースト系のモンスターだと思うんだよなぁ)


だがそんなモンスターがいるなんていう話は聞いたことがない。


「しかもすげぇんだよ、そのモンスターが。俺たちの方には見向きもせず、ひたすらゴブリンばっか倒してやがった」

「意味があるのかね?それは」

「分かんねぇ。だが、あれはなにか目的があるような感じがしたぜ。ひたすらゴブリンを倒すなんて目的がなきゃやれんだろうしな」


そのとき青髪の方が吹き出した。


「ぶはっ。てか見間違えじゃないのか?」


「うん?」


「そもそもの話うっすらとしか見えなかったんだろ?ならダンジョンの新しいギミックかなにかかもな。あそこじゃ何が起きても不思議じゃないし」


「でもよぉ」


「はいはい。この話は終わりだ。だいたいそんなやついるわけないだろ?ゴブリンだけ倒し続けるなんて、あんな雑魚モンスター倒してもなんの足しにもなんねぇし」


「見間違えだったのかなぁ?」


「なにかの見間違えだろ。低層にゴーストが出るなんて話もありえねぇし。それともなんだ?ゴブリンに家族を殺された奴が亡霊となってさまよってるとか、か?」


そんな話をして男たちは食事をしていた。


(ふむ。実際にそういう存在がいるのかは分からないが、警戒するに超したことはないか)


実際にいるとしたら危なそうだしな。


俺がそう思っていたら、赤髪の方が呟いた。


「【迷宮の亡霊】か」


「ん?」


「ぼんやりと見えてひたすら特定のモンスターを倒すなんてまるで迷宮をさまよう亡霊みたいだなって。だから【迷宮の亡霊】」


「良い呼び方じゃねぇの。ははは」


酒が回ったのか2人はゲラゲラ笑っていた。


(【迷宮の亡霊】か。いるのかいないのかは分からないけど、気をつけた方がいいな)


いいことを聞けたな。



キャトとの食事を終えた。


キャトと共に宿に帰り俺はベッドに寝転んだ。


あれからサキュバスの被害には1度も合っていない。


そのお陰でかなり快適にここでの低予算生活を送れている。


そのお陰で毎日の出費以上に金が溜まっていくのだが……。


(手持ちは残り4万……か)


まだまだ少ない。


ちょっと体調を崩したり病気をしたら一気に吹き飛ぶような額だろう。この世界の病院代や治療費というのはかなり高額と聞いた。


(早く、一日でも早く冒険者ランクを上げて、10階層より上の階層に挑まないとな)


俺は現状を認識して改めて方針を決めた。


「とりあえず一日でも早くランク上げクエストを受けらるようにしよう」


俺は右手を天井に向けて、握りつぶした。


夢を掴むような気持ちだった。






Side オッカマ


オッカマはギルドに来ていた。

彼を呼んだのはいつもイツワの対応をしている女性の職員であった。


「オッカマさん。少しお話が……」

「分かってるわ。イツワちゃんのことでしょう?」

「何者なんですか?あの人」


オッカマは額に手を当てて答える。


「私が一番知りたいわよ」


「オッカマさんも知らないんですか?」


「えぇ。何も知らない。でも」


「でも?」


ギルド職員は首を傾げた。


「ひとつ言えることがあるわ。それはあの子は異常なまでに真面目ってことよ」


オッカマは受付嬢を見つめて続けた。


「あの子は今まで見たことがないくらいまじめね」

「やっぱりそうですか?」

「えぇ、そうそう。イツワちゃんの活動記録、見せてくれない?」


スっ。


受付嬢はイツワの活動が記録された紙をオッカマに渡す。



【今日の記録】

活動時間

17時間


・ダンジョンを入った時間

6時


・ダンジョンを出た時間

23時



【活動内容】


・ゴブリンエリートを撃破


撃破タイム 

3分23秒


パーティメンバー

五条 イツワ


受けたダメージ

0


総合評価

SSS+++




「あなたはこれを見てどう思ったの?」


「規格外ですよ。今まで異世界出身の人を担当したこともありますが、突出しています。なにより初挑戦でゴブリンエリートをソロ討伐した冒険者なんて前例ありませんし」


「あたしも同意見ね。まず活動時間が異常すぎるわよ」


スっ。


「なに?この17時間って。有り得ないわよ。普通の冒険者なんて3時間で根を上げて帰ってくるのに軽く5倍以上よ?」


「私も初めて見ましたよ。こんな時間。それも……この活動時間を数日キープしてるのが一番驚かされますね」


「本当に規格外の化け物ね、あの子」


オッカマは考えていたことを吐き出す。


「正直。初見の印象は弱そうな子……ってイメージだったんだけど、訂正するわ」


「イメージはどう変わりました?」


オッカマは目を細めて言った。


「あの子は歴代でも最高峰の逸材よ。あたしが保証する。このペースで成長すれば間違いなく、他の冒険者を軽く凌駕して最強の冒険者になれる」


受付嬢はこの時の言葉を一生忘れることは無かった。


数十年間いつも穏やかな顔をしていたオッカマの顔が崩れた瞬間だったからだ。


それ程までにこの言葉は、軽いようで重かった。

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