第14話 ゴブリンエリート、沈黙

赤いゾーンは俺の後方3メートル左右3メートル、前方1メートルくらいの四角形。


そして、ご丁寧にも受けるダメージ倍率も書いてある。


前の方で受ければ2倍、横の方で受ければ1.5倍。後ろで受ければ1倍。


しかし、俺は前に進むことを選んだ。


俺のステップ回避1回で移動できる距離は60センチ。


それを【暗殺者の呼吸】を使って2回繰り返せば……


ドカーン!!!!!!


背後から地面を殴る音が聞こえた。


「どこ殴ってるんだよ。俺はここだ」


その刹那……。


俺は振り返りながら、がら空きの背中に飛び乗った。


「もがくなよ、余計苦しむだけだぞ?」


「ギィィッ?!!!」


俺は剣を右から左に振り抜いた。

ゴブリンの首が飛ぶ。


シュワァ。


ゴブリンの死体は光となって消えていく。


後に残されたのはゴブリンの体格に相応しいような宝箱。


考えてみれば、初めてのボスのドロップ品だ。


少しワクワクしながら箱を開けてみた。


【ゴブリンエリートの冠×1を入手しました】


売値は500イェン。


Eランク冒険者、早く卒業したいなぁ。

でも、俺は無能だしこのままEランクでくすぶってる方がいいのかな?



【ゴブリンエリートを討伐しました】

【称号を獲得しました】

【称号:ゴブリンキラーを入手しました】


効果:ゴブリンを一撃で倒すことができる



「今の時刻は……19時か。もう少しだけレベリングしていこうか」


俺は6階層に進んでからゴブリンの乱獲を始めることにした。



名前:五条 イツワ

レベル:9

次回レベルアップまで100EXP


攻撃力:9

防御力:9


スキル:剣術E 体術E


称号:剣士見習い、勇気ある宿泊者、見えぬ者


状態:なし



現在レベルは9。

10くらいまでやりたいな。キリがいいし。




ギルドに帰ってきたのは日付が変わる前くらいだった。


いつもの受付嬢に話しかける。


「今日の分の精算をお願いしたいんですけど」

「戦利品をこちらに」


俺は指示された場所に戦利品の詰まった袋を置いた。


受付嬢は中身を確認していく。


「首飾り、首飾り、首飾り……ん?冠?」


不思議そうに冠を見つめる受付嬢。


「それがどうかしましたか?」

「これはゴブリンエリートのドロップですよね?」

「そうでしたけど、なにか?」


「た、倒したのですか?エリートを?」

「倒しましたけど、なにか?」


正直言ってゴブリンエリートなんて通過点に過ぎないと思ってるけど。


ゴブリンなんて雑魚っていうイメージしかないし。


なんならレベル5だしな。ゴブリンエリート。


むしろ、倒すのが遅かったくらいじゃないだろうか?


(あー、分かったぞ。俺が無能すぎてゴブリンエリートを倒せると思ってなかったんだな、この人)


考えてみれば当たり前の話だった。


そう考えるとこの場に居づらくなってきた。


既に報酬は机の上に置かれている。


「精算ありがとうございます。では、また明日」


受付嬢に別れの挨拶をしてから今日は帰ることにした。


無能と思われてることについては特に何も感じない。


だって俺は事実として無能だしな。


帰ろうとしてると受付嬢が話しかけてくる。


「あ、イツワさん。本日のステータスチェックお願いしますね」


ゴトッ。


受付嬢が水晶を机の上に置いた。


「基本的にギルドでのステータスの更新は毎日お願いしたいので、ご協力お願いします」


俺は机の上に置かれた水晶に振れた。


水晶の中に文字が浮かんだのを確認すると手を離す。


なにが書かれているかまでは目を通していないけど、まぁ昨日と大して変わりはないだろう。


それよりもお腹がすいたな。


ギルドを出て酒場に向かおうと歩いていると、丁度酒場の方からオッカマさんが出てきた。


「あら、イツワちゃんじゃないの。久しぶり〜」

「お久しぶりです」

「どう?冒険者活動の方は」

「う〜ん。なんていうか、いろいろと厳しいですね。話には聞いてましたけど」


Eランク冒険者の生活の厳しさは想像の上をいっていたな。


初めは厳しいとは聞いていたけど。


正直言って装備の整備費用なんかも考えたらほんとにギリギリだ。


「ふふふ、みんなそんなもんよ。特に駆け出しの頃はね。あたしも話には聞いてるわよ。イツワちゃんが頑張ってるって」

「ははは、ありがとうございます。人並みですよ人並み」


そう答えるとオッカマさんは言った。


「おっと、いけない。ギルド職員に呼ばれてたんだったわ。じゃあね、イツワちゃん」


そう言ってオッカマさんは冒険者ギルドの方へ歩いていった。


俺も酒場に向かうことにした。


と、その前に。


宿屋のストロベリーに向かうことにした。


「今日もお客さんがこないのですー」


ぐで〜っとカウンターに突っ伏している女の子の姿。


(そう言えばまだこの子の名前も知らないんだよな俺)


今更だけど聞いてみようか?


「そういえば名前はなんて言うの?」

「はにゃっ。私ですか?」

「うん。俺はイツワ。また名乗ってなかったよね?」

「イツワ様ですね。私はキャトと申しますです」

「キャトか。分かったよ。これからご飯でも行かない?」

「ごはん?」

「うん。どうかな?この前から世話になってるし。奢るよ、出せる分だけ……!」


情けないけど俺の財力ではそれが精一杯なのだ。


そう聞いてみると目を輝かせてた。


「い、いいのですか?」

「うん。もちろん嫌なら言ってくれていいからさ」

「行きますです!お客さんはイツワ様しかいませんし!」


ってことで俺はキャトとご飯を食べに行くことにした。


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