子猫、拾いました。 ~と思ったら神獣の子でした~

とろり。

プロローグ


 私は〝無能者〟の烙印を押された。



 12歳になった日、村の長老は私のスキルを鑑定した。


「この娘は、〝無能〟だ。我々上級民族にとっての恥じだ」


 両親は悲しさのあまりに泣いたが、泣きたいのは私の方だった。


 何も悪いことをしていないのに

 私なりに一生懸命に生きてきたのに

 望んだ訳ではないのに……


 その日の夜には私は村から追い出された。両親は最後、「アレン、ごめんね」とだけ言った。

 村人は槍を構えて私を脅す。


〝二度とこの村に足を踏み入れるな〟と


 踵を返すと私は走った。

 走るしかなかった。

 けれど

 息が続かない。

 足が重くなっている。

 そして結局

 私は転んだ。


 夏草の匂いが鼻につく。去年の今頃はお母さんと遊んだ草原。でも……

 手で夏草をもぎ取り、またもぎ取る。苛立ちに任せ次々と。


「なんでッ! なんで〝無能者〟なの! なんでよッ!」


 仰向けになると星空。無情なまでに輝いていた。


「もう……やだ、」


 瞼を覆うと、


「みゃ~お」


 え? なに?

 目の前には小さな小さな子猫がいた。


「みゃ~?」

「お母さんは? もしかして、あんたも無能者? あはは」

「?」


 可愛げに首を傾げる。

 捨てられた者同士どこか繋がる部分を感じて、私は子猫を抱き上げた。


「みゃ~?」

「毛並みが白いから、君は〝シロ〟! な~んてね。私、テイマーでもなんでもない。君は自由なんだよ。なんにでもなれる。でも、自由って寂しいよね。きっと、きっと、……」


 子猫が変な腕輪をくわえたのが分かった。おそらくどこかで拾ったのだろう。


「みゃ! みゃみゃ!」

「な、なによ! これを付けろっての? はいはい、分かりましたよ」


 私は子猫のくわえた腕輪を右腕に装着した。

 と

 いきなり小さな光がふわりと輝く。


[アレンを主人と認めました

 名前を付けてください]


「はっ? なにっ? 腕輪がしゃべった!?」

[私に名前を付けてください]

「ん? いや違う! この子猫?」

[はい。私はいち神獣の子です

 ですが、バーク人による戦争に巻き込まれ、父とはぐれました]

「こんなに可愛いのに、話し方がなんか、シュールね」

[私に名前を

 アレン、あなたについていきます

 その腕輪が契約の証]

「分かったわよ。じゃあ、シロ! シロでいい?」

[もちろんです。アレン]


 今夜は別れと出会い、両方を経験した。

 終わりと始まり。

 この不条理な世界で私は生きている。

 でも

 負けない。

 ぜったいに負けない。

 負けないんだから!


 まだ暑いこの季節。

 私の冒険が今、始まる――



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子猫、拾いました。 ~と思ったら神獣の子でした~ とろり。 @towanosakura

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