第3話 事件のその終わりの始まり
「頼む! もう一度、学校に通ってくれ!」
「だから何度頼まれても嫌って言ってるでしょ!」
この言い合いが続いて何時間経っただろう。
時を遡ること数時間前。
「命を狙われている? それは例の事件の事か」
「ええ、実際に襲われたんだからたまったものじゃないわ」
「今、なんて?」
「だから襲われたのよ。殺人鬼に」
そこでずずいっとレオンが叶に迫る。
「な、なによ」
「頼みがある」
「い、いや……」
「まだ何も言っていない」
「なんか嫌な予感がする!」
そこでレオンは叶の手を握る。「ひっ」と声が上がる。
「殺人鬼の特徴は背格好は色は形は性別は種族は!?」
「何よその質問攻め!?」
「頼む答えてくれ!」
「え、えーと……必死に逃げてたからあまり覚えてないけど……私と同じくらいの背格好の……まっくろくろすけ」
そこでレオンは真っ直ぐ頷く。やはり残影だ。しかも人型の残影となればやはり相当手練れの影幽遣いだろう。
「俺はそいつを探してる」
「なんで? あんた警察?」
「違う。俺は影幽だ」
「英雄? 馬鹿なの?」
一般人に言っても伝わらない事だ。普通の法で影幽は裁けない。ならば影幽を裁くのもまた影幽なのだ。
レオンは誓う。この命に代えても目の前の少女を守ると。しかしそのために彼女には囮になってもらわなくてはならない。矛盾。しかしそれが最善と判断した。最も善に近い行為だとレオンは判断した。
「君は死んでも俺が守る。だから、お願いだ。学校に通ってくれ」
そして断られ、それでも引き下がらないが続き数時間が経ち、今に至る。
「あんたに本当に私が守れるの!? だって相手は警察だって手を焼いてる殺人鬼なのよ!?」
「……本当は、この方法は取りたくなかったんだが」
制服のポケットからカッターナイフを取り出す。叶の顔が一気に青ざめる。
「ま、まさかあんたが殺人鬼――」
「投影」
手首にナイフを突き刺すと血の代わりに影が吹き出す。それは刃の形になる。
「なに、それ」
「君も見たじゃないか。人型のこれを」
「まさか」
「ああ、殺人鬼の正体は影だ」
「馬鹿げてる……」
「でも今これを見ただろ」
そう、見てしまった。
知覚してしまった。
故に目覚めてしまった。
それは確かに芽吹いた。
まだその小さな芽が気づかれる事はなく話は進む。
レオンが力を抜くと刃は霧散する。その異能を前に叶は静かに納得する。
「わかった。あんたのこと信じる」
「本当か!?」
「だけど学校に通うのは一度だけ。その一度で殺人鬼を捕まえてみせて」
正直、それは難しい話だった。残影はあくまで能力で生み出されたものでしかない。殺人鬼そのものである影幽ではないのだ。だが。
「ああ、誓って」
追う方法が無いわけではない。それほどレオンは無策ではない。
人型、本体に近い残影が出てくるのならば手はあるのだ。
「じゃあ……明日、ね」
「ああ、明日」
そうして二人は一旦別れた。
叶の家を出る。するとその前には一花が待っていた。
「生徒会長?」
「だから一花でいいって言ってるのに」
夕景の空。
二人は歩みを共にする。
「ねぇ、これからショッピングモールの方にいかない?」
「いいけど」
「やたっ。見たいものがあるの」
「ああ」
白百合の君はどこまでも可憐で、きっと自分には似合わない存在だ。
自分のような血濡れた人間には。
レオンは自嘲気味に笑う。
そんな彼の手を取って一花はショッピングモールを回る。
コスメショップ、ファッション、雑貨、モールの店を全て回る勢いだ。
「楽しい!」
付き合わされているだけのレオンはその笑顔を見ただけでお釣りがくると思ってしまった。
この日常がいつまでも続けばいいのにと。
「ねぇ、映画を観ましょう?」
彼女が指さしたのはホラー映画だった。
題名は「ドッペルゲンガー」
「そこはラブロマンスとかじゃないか?」
「あら、レオンでも冗談を言うのね」
そんな風に笑い合いながら映画館に入る。
正直、映画としてはチープだった。
だからだろうか。
一花が話しかけて来ても気にならなかったのは。
「ねぇ」
「うん?」
「持ってるんでしょう?」
「何を」
「
その言葉が一花から出て来た事にゾッとするレオン。
影追香とは強い、とても強く残った影幽の痕跡を追うための道具だ。
その存在を知っているということは――
「ねぇレオン」
レオンはただ一花の横顔を見ていた。
「貴方は私が殺人鬼だって言ったら今ここで私を殺すのかしら」
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