第2話 その出会いはきっと必然


 ある日、一花からレオンにこんな要望があった。

「叶さんにプリントを届けてくれない? 生徒会で一番家が近いのレオンなの」

「はあ、それは構わないが。今時、プリント? タブレットにデータを送ればいいじゃないか」

「プリントってのは言葉の綾というか、レオンに肩肘張らせないための方便というか」

「じゃあなんなんだこれ」

「転校届」

「……」

「ごめんなさい。私、止められなかった」

「俺に謝る事じゃないだろ」

 そう、それは高希たかき叶という少女が決めたことであり、誰が干渉出来るものでもない。

「わかった。任せてくれ」

「ええ、お願いね」

 そうしてレオンは生徒会室を後にする。白百合の君を一人残して。


 ■■■


 そこは所謂、古民家だった。インターホンを押すと。ひび割れた音が響いた。その後、おばあさんが出てくる。

「おんやぁ、その制服」

「はい、天原学園の生徒です」

「てことは叶の友達かね」

「あーはい」

「そっかそっかあがっていきんしゃい」

「えっあっはい」

 おばあさんに言われるがまま古民家に入る。線香の匂いがレオンの下に漂う。

「叶! お友達が来てくれたよ!」

 二階に向かって声を張り上げるおばあさん。それを受けてギシギシと音を立てながら一人の少女が降りてくる。先ず気になったのは目に痛いほど金色に染まっている髪の毛だった。それで勝佑の言っていた叶本人であると気付く。

「どうも」

「……誰よあんた」

「同じクラスの黒尾連音だけど」

「ああ……そんな奴いた気がする」

 ダウナーというよりやる気がないように見えた。というか何かを諦めているような感覚をレオンは覚えた。

「で? その黒尾くんがなんのよう?」

「これ」

 転校届を取り出す。すると叶は目を見開き。

「馬鹿ッ!?」

 と言ってそれをひったくった。突然の事でレオンも反応出来なかった。

「ちょっと、こっち来なさい」

 そう言ってレオンの手を引き二階へと引き摺り込む叶。おばあさんは「ごゆっくり~」と言って茶を啜っていた。

 そうして叶の部屋であろうピンクを基調とした一室に案内される。

「お祖母ちゃんに見られたらどうすんのよ……」

「見られちゃマズいのか?」

「そりゃマズいわよ」

「なんで?」

「はあ……そっからか……だって転校の件は私が一人で勝手に手続きを進めてるからだけど?」

 一瞬、レオンは言葉に詰まる。家族に内緒で学校を転校? と。そんなことが可能なのかと。しかしその答えはすぐに返ってくる。

「自由な校風っていいわよねぇ……どこまでも融通が効いて」

「……一花の仕業か」

 一花の実家である条奏院家は天原学園に多額の融資をしており、ある程度の融通なら本当に効いてしまうのだ。まるで漫画の世界だとレオンは思う。つまり今回の叶の転校は叶と一花の二人で取り決められたやり取りなのだろう。そこまで推察してからあえて問う。

「どうして転校したいんだ?」

 いじめか、授業に付いていけなかったか、理由なんていくらでも思いつく。それでも返って来た答えにレオンは驚くことになる。

「そりゃあ……命を狙われてるからだけど」

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