第15話 継承

源八は、凪を殺さないように気づかって居る?


たしかに。


 


本当にこの少年は、よく見ている。


急ぐ玄朱の背中に、流斗はさらに呼びかけた。


「灰色狼が勝っても継承はたぶん、うまくいかないよ!」


 


守破離玄朱は、紗耶屋水琴のもとへ急いだ。気性の激しさを水晶の仮面に閉じ込めている。


その苛烈さと、それを押し込めた自制心が、玄朱には好ましい。


 


恋愛感情は、微妙なところである。


お互いを異性として意識するには、あまりにも立場が異常すぎた。


 


すい。


自然な動作で行く先を遮ったのは、海堂淳だった。水琴のクラスの風紀委員であり・・・『槐』においては、水琴の副官を務めていた。


 


「守破離さん。」


口調は先輩に対するもの、ということもあって丁寧だが、一歩も通さぬとばかりに玄朱を睨みつけてくる。


 


「凪は死にものぐるいで、戦っている。


あの決闘者としての誇りを、踏みにじるつもりか?」


そんな、論調で話してみた。


海堂淳の視線が、少し和らいだ。


「しかし、影王の剣が、」


 


「きみか、水琴自身が出場出来れば、まだ話は違ったんだろうけどな。」


海堂を宥めるように、玄朱は言った。


「君は前回のデュエルに。水琴は、今回、すでに出場してしまっている。」


 


「前回の『影王遺物』は、千年前の美術品でした。」


苦々しげに、海堂は言った。


「確かに高価は高価。とんでもない値がついて取引されたそうですが、わたしが出るほどのものでもなかった。しかし、本部がどうしても手に入れろと。」


 


結局のところ、それはオークションを経て影王教団の関係者に渡っている。


その莫大な利益が、だれかの懐に入ったとは思いたくないが、本部の誰かが、筋書きを描き、そのとおりにことが進行し、『槐』に利益をもたらしたのだ。


 


功績は、その筋書きを描いた者に帰し、学院に派遣された『槐』の『枝』たちは、称賛の言葉もない。


 


「何のために戦っているかは、人によっても違うと思います。でも、少なくともぼくと姫は、『教団』に渡してはあまりにも危険な『魔道具』を回収している。そのつもりで戦っています。


しかし、『槐』の長老たちは」


 


この青年は。


強い。


恐ろしく強い。


 


その、力は、あるいは水琴をも上回る可能性があった。


それでも、決闘の結果を踏み躙って、影王の剣を手にしようとすれば。


 


『教団』にも匹敵する猛者はいるのだ。


 


そしてルールを無視した戦が始まれば、双方共に増員を行うだろう。


戦いは、すぐにこの地方全体を巻き込む。


 


ひとの力を超えた両者の争いは、多くの町が灰燼と化し、死者はすぐに万の単位に膨れ上がるだろう。


 


「分かった。」


玄朱は、短く言った。


 


「おわかり・・・いただけたんですか?」


怪訝そうに、海堂は玄朱を、見つめた。


 


「きみも。水琴も。


まったく、引く気がないことがよく分かった。


ただし、いいか。ことを起こすのは影王の剣の継承がすむのを待て」


 


「凪が倒れても動くな、ということですか?」


「そうだ。」


二人の視線は絡み合い、やがて海堂が頷いた。


「また、剣の継承が失敗する・・・ということですか?


しかし、今回は。


教団はわざわざ、影王直系の血筋の者を探し出して、継承者として連れてきています。」


「まあ、見ているといい。」


さっき、槙島流斗から聞かされたのと、まったく同じ口調で、玄朱は言った。


「そうはうまくはいかないと思うよ。 」



------------



一ノ瀬空吾には、戦う源八の心の内がわかる。


仮面をつけているとはいえ、相手が誰かは分かるのだ。


 


そして、源八と凪はクラスメイトだった。


 


頼むぞ、源八。


空吾は心の中でつぶやいた。


今度の「影王遺物」は、かの御方さまの愛用の剣だ。決して。


決して、「槐」に渡すことは出来ない。


 


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る