第13話 決闘のはじまり

「大丈夫か?」


「もちろんです。」


桜花は答えた。


 


水樹から見ても顔色が、よくなっているのがわかる。


いろいろと文句は言いたいが、少なくともこの点は、槇村流斗に感謝しよう、と水樹は思った。感謝の意をあらわすために、やつは半殺しで追い出すに留める。


 


「いろいろ合ったが、ベストをつくせ。それだけでいい。くれぐれも死んで刺し違えようなどと思うなよ。わたしたちは、学生だ。


ベストを尽くしてできなかったときは、また別の方法を考える。それは・・・・凪桜花。おまえが心配しなくてもいいことだ。」


 


わかりました。


と、凪桜花は答えた。さきほどの会話をきいていた彼女には、まったく安心できなかった。


 


会場は、すり鉢状になった空き地だった。


いくつかぼんやりと照明が点っている。暗闇では、多くの場合、「影王教団」のものが有利になりすぎる、ということで、最小限の灯りは確保しているのだ。


 


周りには、闇に沈んだ人影が・・・・50もいただろうか。


 


「つまり、ここに集合しているみなさんが、『槐』と『影王教団』の戦闘員ってことですね?」


 


全体を見渡せる特等席・・・とはいってもそこには、腰掛けるのにちょうどよい岩があるだけだったが・・・に陣取った槇村流斗が、守破離玄朱に話かけた。


 


「呼ぶときは、『槐』の『枝』と、『教団』の『信徒』と呼んでやってくれ。」


「わかったよ、黒の審判。」


 


夜風が冷たいのか、毛布のまえを合わせた流斗の表情は、影に沈んで伺えない。


だが、その口元には笑みが浮かんでいるように見えた。


 


「まだ、きちんと自己紹介していなかったな、ぼくは守破離玄朱。ここの生徒会長をしている。」


「ああ、そういえば。ぼくは槇島流斗。ただの転校生です。」


「この期におよんで、そう言うか?」


 


流斗は、ゆっくりと顔を上げた。


あらためて、その顔を見た玄朱は、可愛らしいとさえいえるその容貌に、気づき、驚いた。


 


「そちらも『生徒会長』だけをしているわけじゃないでしょう?」


「たしかに。」


くすり、と玄朱は笑った。


「ぼくは、きみが『黒の審判』と呼んだ役目を負っている。中等部のころかろだから、もう丸2年になるね。」


「こんなことを、ずっと続けているわけですか?」


「どこまで、わかっている。」


「もと、影王の城を改築して建てられたこの光華諸学院には、影王が残した宝物が隠されていて、一定期間が経過すると登場する。その所有権を巡って、生徒に化けた『槐』と『教団』がデュエルを行うのだと。」


「おとぎ話だな。せいぜい、学校の怪談レベルだ。」


「それを何十年も続けているわけですか?」


 


玄朱は、天を仰いだ。


「もう、とっくに上層部にとっては、ただのお宝探しのイベントになっているよ。」


「でしょうねえ。」


 


感慨深そうに、流斗はそう呟いた。


 


「だが、ぼくが審判に就任したここ一二年でまた情況が変わり始めたのさ。」


 


なぜ、こんなことをこの少年に話してしまうのがろう。


玄朱に、これもトンデモ伝説を思い出した。


伝説では無い。ただの娯楽小説だ。


 


困ったものがいると、他の世界から勇者がやってきて、悪者を倒し、世界は光に包まれる。


目の前の少年は、のほほんとしていて、あまり勇者らしくはなかったし、彼、生徒会長にして審判、守破離侯爵家の嫡男玄朱は、「影王教団」を必ずしも殲滅すべき敵だとは思わなくなっていた。


 


「と、いいますと?」


「お宝のなかに、知性のある無機物がが増えてきたのさ。」


「魔道具。」流斗はゆっくりと言った。「魔力を持ち、自らが知性をもって対話が成立する。


そう言ったアイテムのことでしょうか?」


「ほんとうに、きみは魔法使いのようなことを言うねえ。」


 


確かに、毛布を頭からかぶった流斗の姿は、おとぎ話にでてくる魔法使いのそれに、似ていなくもなかった。


 


「ということは、安定してこの世界に顕在させ続けるには、契約者が必要になる、と?」


 


ふと。


守破離玄朱は、奇妙な感覚に捕らわれた。この、少年は、本当に異世界からやってきたのではないだろうか。


 


真下の決闘場では、槐と影王教団の代表者が、ゆっくりとあゆみ出た。


 


一人は言うまでもなく、凪桜花。


携えた棒は、ただ棒ではない。長大な刃をはやした鎌となっていた。


付けた仮面は、ウサギ。


およそ、実戦向きとは思えない。桜花が小柄なことも相まって、それはまるでふざけた喜劇の登場人物のようであった。


 


対する影は、灰色のマントに全身を包み、顔はすっぽりと狼の面で覆われたていた。


 


藤堂源八である。


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