第12話 決闘の夜6
夜は果てもなく暗い。
ここは、校舎からも宿舎からも、影になっていて、灯りらしい灯りがまったくないのだ。
街灯? だれも来ない夜の丘陵にそんなものをつける酔狂なやつがどこにいる。
集うものにまともなニンゲンがいるわけがない。
ここに至って、『槐』も『教団』も身内を疑いだしていた。
空吾がぽろりともらしてしまったように、古の魔人の王の復活を目論む『影王教団』も、それに対抗する光帝の直属組織『槐』も一枚岩ではなかった。
とくに、空吾や水琴のような、この地に残された影王の遺物をめぐって、抗争を繰り広げるメンバーたちにとっては、どちらの組織もほしいのは、「影王遺物」とそれが生み出す利益そのものであって、影王の復活もそれを阻止することも、どうでもよくなっているように感じられていた。
少なくとも命をかけて戦っているのは、自分たちだけで、上層部は「影王遺物」のもつ力と、それを使用して、あるいは売却して得られる利益にしか関心がないのではないだろうか。
そして、その中でも各派閥が、「利益」をもとめてしのぎを削っている。それが、八百年続いた「光」と「影」の戦いのいまの姿だった。
例えば水琴は、「槐」のなかでも武闘派として名高い「金剛派」の有力貴族である紗耶屋伯爵の長子だった。
対立する派閥が、情報収集のため、あるいは、こっそり、「影王遺物」を自分の派閥のために持ち帰る。そんな意図をもって送り込まれた諜報員。
流斗をそんな風に疑い出したのは、一応、そんな理由付けがある。
ならば、もっと目立たぬように。少なくとも恒例の儀式である嫌がらせを避けるような方法で転校してきただろう。あるいは、職員や教員といったような余分な軋轢のない地位で送り込んでもいい。
『槐』と『教団』に囲まれて尋問を受けることなど、両者の暗闘を少しでも知っているものならば、ぜったいに、ぜったいに避けたい事態だったろう。
謎だらけの転校生もさすがに、そこまでは例外ではなかったと見え、尻もちをついたままで、皆を見上げてこう言った。
「今日は大事な決闘の夜ですよね。」
全員は顔を見合わせた。
「おまえはどうする?」
水琴が尋ねた。
「退散するのが、ダメなら一緒にいますよ。それじゃダメ?」
もちろん、ダメに決まっていたがほかに方法はない。
影王遺物を巡っての今宵の決闘は、思いもよらぬ乱入者を抱えたまま開催されることとなった。
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