第10話 決闘の夜4

空吾や源八にとっては、凪桜花は、クラスメイトである。


 


 


空吾にとっては、凪桜花の印象は、おとなしい女の子で、たぶん自ら好き好んで暴力などふるったことはないだろう。


そんな彼女を、デュエルの代表者として、狩りだした紗耶屋水琴に、夜の空吾は腹をたてていたし、昼間の空吾は、『槐』の層の浅さを心から軽蔑した。


 


手には彼女の得物である棒が握られている。


身長よりも長い硬い木製の棒は、取り回しの悪い代物だったが、幼いころからそれを扱いなれてきたという桜花は、自在に使いこなす。


 


そのまま、侵入者の襟首をつかんで、持ち上げようとしている藤堂源八に打ちかかろうとするのを、空吾は、相手に体をねじ込むようにして、止めた。


藤堂源八は。


 


今夜の『影王教団』側のデュエルの代表だ。


試合前にこんなところで、対戦がはじまっていいわけはない。


 


「おや、凪さん。へんなところで会うね。」


 


小柄な体を、源八の右手ひとつで吊り下げられながら、流人は笑って手をふった。


襟首をつかんで釣り上げられれば、当然、痛いし、首も締まるはずだが、流人は平然と笑っていた。


 


源八は、言われた通りに手を放した。


 


落ちた拍子に、転校生は、したたかに地面に腰を打っている。


痛い。


そう言いながら、なみだ目で立ち上がる流人をうしろに庇いながら、桜花は、顔の正面に棒を立てる。


 


桜心流浮華。


 


昼間の空吾が心のなかでささやいた。


とにかく昼間のかれはあらゆることにおおまじめで、槐がスカウトをかけそうな流派は一通り、文献を読んだり、調べていたのだ。


 


それによれば、まず受けからはいる流派らしい。修得は難しいが、 極めたものは一人で一軍を相手に出来るという。


話半分だとしても、デュエルに差し向けてくるのだ。なみにの腕ではあるまい。


 


「その少年はこちらで預かろう。」


 


そういって守破離玄朱しゅはりとうじゅが、槐の長を連れて現れたときは、空吾は逆にホッとしたのだった。


 


「駄目だな!」


源八が言い張った。


また、凪桜花なぎふうかが眼尻を逆だてる。


 


「おまえらは、こいつを殺すだろう。」


狼の仮面の下の源八の声は、ややくぐもっていた。


「そんな野蛮なマネはしないわっ!」


水琴が食ってかかった。


まあまあ、と止めに入ったのは、玄朱と、流斗自身だった。


「ぼくが、とんだ闖入者だってことは理解しているよ。様子からすると今日がデュエルの、その日なんだね。


さっきも、伯爵と灰色狼には言いかけたんだけど、ぼくは、布団を濡らされて寝れる場所をさがしてさ迷っているだけなんだ。」


 


「それでそんな格好なのかい?」


玄朱が面白そうに尋ねた。


流斗は湿った毛布をたたんで、頭からかぶっている。裾はマントのようであり、お伽噺の魔王使いを思い起こさせるものがあった。


 


黒の審判くろのジャッジと荊姫。」


流斗は軽く手を振った。


「ぼくはお邪魔だと思うから、速やかにここを立ち去るから、それで勘弁してくれるかな?」


 


「その減らず口を聞くまでだったら、そうもしたさ。」


 


黒の審判、黒の審判ねえ。玄朱はぶつぶつとその呼び名を口の中で呟いていた。


実際には彼だけに許された制服は、黒にもみえる濃い紫であり、いろいろ間違っているのだが、それでいて、本質を言い当てていた。


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