オチャメな妹分と授業参観

フィステリアタナカ

オチャメな妹分と授業参観

キーンコーンカーンコーン


「起立。礼。着陸!」


(タンヤオ。着陸じゃなくて着席な)


 僕の妹分であるタンヤオは、今年無事にエリート養成魔族小学校に入学できた。問題を起こしていないかどうか気になっていたところ、授業参観があるということで、僕は親代わりに参加することにした。


「兄者! 兄者!」


(前を向け)


 僕は教室の後方から授業の様子を眺めていると、タンヤオは振り向いて僕に手を振っている。視線で前を向けと伝えようとするが、彼女は賢くないので伝わっていないようだ。


『はい、今日はみなさんの家族について教えてください。ちゃんと作文を書いてきましたか?』


(ほう。これはまたまた。タンヤオにとってかなりハードルが高いな)


 クラスの女の子達が次々と家族についてのエピソードを発表していく中、僕はタンヤオが何かやるのではと内心ひやひやしていた。


『はい、じゃあ次はタンヤオちゃんね』

「ふぉふぉふぉ。ようやくわらわの出番じゃ。作文は用意していないのじゃ!」


(やっとけ)


 タンヤオはおそらく何も書いていないノートを広げ、みんなの前で発表する。


「兄者は――」


(何を言うんだろう)


「宿題をしろ、甘い物じゃなくご飯を食べろといつも言うのじゃ。鬱陶うっとうしいのじゃ」


(それはねぇ。言いたくもなるよ)


「風呂に入れ、歯磨きをしろ、っていつも五月蠅うるさいのじゃ!」


(うん。手伝わないといけないからね。面倒見きれないよ)


「この前、毒の沼地で散歩をしていたとき」


(昨日のことだな)


「兄者の背後にショートケーキを食べているティアマットがいるのじゃ! って言ったのに無視したのじゃ」


(そりゃね。ティアマットは危ないから距離を取らないとね)


「わらわもショートケーキが食べたかったのじゃ。おすそ分けして欲しかったのじゃ」


(あとで買ってやるから我慢しろ)


「きっとチーズケーキ、チョコレートケーキ、モンブランも隠し持っていたのじゃ!」


(そうか? ティアマットは隠し持っていなかったように見えたが)


「あと最中もなかもじゃ!」


(洋菓子を連発してここで和菓子か)


「兄者ならティアマットに勝てるのじゃ! このクラスの男子なんか目じゃないのじゃ!」


(タンヤオ? ここ女子クラスだよ? どこに男の子がいるのよ?)


「兄者は、宿題をしろ、甘い物じゃなくご飯を食べろといつも言うのじゃ。鬱陶うっとうしいのじゃ」


(初めに戻ったな。繰り返さなくていいよ)


「風呂に入れ、歯磨きをしろ、っていつも五月蠅うるさいのじゃ! この前、毒の沼地で散歩をしていたとき、兄者の背後にショートケーキを食べているティアマットがいるのじゃ! って言ったのに無視したのじゃ。わらわもショートケーキが食べたかったのじゃ。おすそ分けして欲しかったのじゃ。きっとチーズケーキ、チョコレートケーキ、モンブランも隠し持っていたのじゃ!」


(すごいね。一字一句間違いなく言えるなんて)


「あと魔海の塩もじゃ!」


(なんで? 甘くないよ)


「少し塩味があると甘さが際立って美味しくなるのじゃ!」


(へー。よくそんなこと知っているな)


「それから、あとそれから――」


 タンヤオの表情は焦りから泣きそうな顔つきに変化していく。


「う、う、う」


(泣くなタンヤオ。大丈夫だ)


「脳に糖分が足りなくなってきたのじゃ。頭痛が痛いのじゃ」


(終わったらお菓子買ってやるから。あと二重表現)


『はい。これでタンヤオちゃんの発表は終わりね。次は――』


 タンヤオは発表を終え、自分の席に戻っていく。彼女は机の中から大量のチョコレートを取り出し食べ始めた。


(タンヤオ、授業中に食べるな)


 他の保護者から笑い声が聞こえてくる。そんな彼女を笑って許してくれる保護者が多くて、僕は「本当にエリート養成の学校なの?」と疑問に思い始めた。


『じゃあ次は、正しいボケ方について学んでいきましょう』


 どうやら入れる学校を間違ったみたいだ。僕は今後のことについて頭を悩ませた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

オチャメな妹分と授業参観 フィステリアタナカ @info_dhalsim

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ