第4話


 すると“僕”は得意げに答える。


「だって僕はキミで、キミは僕だからね」

「やっぱりドッペルゲンガーなんじゃないか!」

「さあどうだろうね」

 

 “僕”はフッと笑った。


「この人口の多さだぜ? 一人くらい、全く同じ人間が居てもいいんじゃない?」

「だからそれをドッペルゲンガーって言うんだって!」


 なかなかドッペルゲンガーであるということを認めない“僕”。全く、本当になんなんだ。


 でも。


「なんかキミ、面白いな」


 僕はそう言った。同じ姿かたち、中身は真反対……とまでは行かないけれど、変だし。僕とは違う。


「キミも、十分面白いよ」


 “僕”が笑った。


「じゃあそろそろ、僕は帰るよ。今日は下見に来ただけだし」

「じゃあ僕も帰ろうかな」

「ってことで、それ、返して?」


 僕は“僕”が座っているチェアを指差す。それは僕が持ってきた物だったのに、桜の下で開いた瞬間、そこに“僕”が座っていて。……要するに、横取りされたものだったのである。


「ああ、ごめんよ」


 “僕”がイスから立ち上がった。僕は丁寧にそれを畳んで、持っていた収納袋に入れる。


「じゃ、バイバイ」


 僕は“僕”に向かって手を振る。すると、“僕”も鏡写しのように手を振り返してきた。


「うん、またね」

「いや、またねじゃないから」

「え、なんで!?」

「『また』会っちゃったら、僕、死ぬから」

「じゃあ今生の別れか」

「なんか嫌だな、その言い方」


 僕は思わず笑う。“僕”も笑っていた。


 じゃあ。


 声が重なる。


「「バイバイ」」


 ふわぁっと風が吹いた。桜の花びらが数枚、僕の目の前を通り過ぎていく。思わず目を瞑り、再び目を開けると――そこには。


「あれ」


 “僕”の姿は、跡形もなく消えていた。


 透けて触れられない体、飄々とした正確。

 桜の木の陰から現れ、花びらとともに去っていったあいつは――。


「桜の木の精、だったりして」


 一人でそんなことを思いながら、僕は家路につく。もうすぐで満開の頃を迎えそうな桜たちが、僕の背中を見送っていた。


 


(了)

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桜と僕と、ドッペルゲンガー 咲翔 @sakigake-m

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