第4話女騎士と風車とドラゴン2

「いやー。恐ろしいね」

重厚な甲冑を着た女性は、笑いながらこちらを見ている。

いや、顔も隠れてるから性別は分からないが、多分声とか体付きからして女性だろ。

「本当に恐ろしいですね。ドラゴンとまともに殴り合っていたあなたが」

あの後、いきなり現れた女騎士のアセビと名乗る人物が、ドラゴンと殴り合ってくれた事で、マヤ達は遠くまで逃げる事が出来た。

しばらくすると、こっちまで吹き飛ばされてきた。

すごい勢いで、飛んできたからこのままいなくなると思ってだけど、木にぶつかって止まった。

そして、私達にめちゃくちゃ笑顔で話し掛けてきた。

凄く怖い。

「うーむ。追って来ないようだね。どうやら、この原っぱから出てしまえば、追うのをやめるみたいだ」

本当だ。

アセビをここまで、ぶっ飛ばしてきたドラゴンは、こちらにすっかり興味を無くしたらしく風車の周りを歩いている。

さっきの怒り狂った姿が、嘘のように落ち着いており、今だったら撫でたり出来そう。

「とりあえず助けて貰い、ありがとうございます。私は、魔女マヤ。そして、この魔導書はオリー」

アセビに、オリーが見えるように布袋から取り出した。

「よろしく」

オリーは、短く挨拶を済ませる。

もう少し愛想よくしてくれないかな。

「いやいや。誇り高い騎士として振る舞っただけだよ。それよりも、マヤちゃんは魔女なのかい?空を飛んでいたから魔法は使えると思っていたけど、こんなに小さいのにすごいな!」

アセビは、木にめり込んだ体を起こし、硬い手でマヤの頭を撫でた。

鉄のヤスリで頭を削られてるみたいで、凄く痛い。

「あれ?でも確か魔女になるには専門の所に、通わないといけないはず」

「自称魔女だから、気にしなくていいぞ」

勘がいい女騎士アセビと余計な事を言うオリー。

それを聞いたアセビは、硬い甲冑を揺らしながら愉快そうに笑った。

「なら一緒だな!私も女騎士を名乗っているだけの一般人だからな。この甲冑も趣味で着ているものだ」

なんと。

この場に身分を偽っている者が二人いるとは。

てか、趣味でこんな重そうな甲冑を着るなんて気合い入ってるな。

そして、気合いの入った鋼鉄の甲冑は、ベコベコになっており動くのが、大変そうだ。

「あのドラゴンは、どうしていきなり現れたんですか?」

「それは、マヤちゃんがあの風車に近づいてしまったからだ」

「まったく話の流れが見えないですけど」

どうして、ドラゴンの話からいきなり風車の話になったんだ?

あのドラゴンが、あの年季の入った風車を守っているとか言うのだろうか。

「ドラゴンにそんな知能ないだろうが。昔は、神の使いや天候を操るとか言われていたが、今ではそこら辺の犬や猫と言われてるだろ」

オリーが当然の疑問をアセビにぶつける。

あんな巨大な体に、犬や猫くらいの知能しかないのか?

オリーは、口は悪いが魔導書としての知識は無限にある。

多分ドラゴンに対する知見も正しいのだろう。

アセビは、また愉快そうに笑っている。

この人めちゃくちゃ笑う人だな。

そんなにオリーの言葉が面白かったのだろうか。

そして、笑いながらアセビは風車を指を向けた。

「オリーくん中々難しいね。まぁドラゴンに対しての知見は、正しいよ。でもね、あの風車は中々曲者でね。マヤちゃん達も、あの風車の鳴る音を聞いたでしょ」

さっきの唸るような風車が回る音。

あれの事を言っているのだろうか。

「その音が、ドラゴンを呼ぶ。だから、これを鳴き風車と呼ばれているよ」

鳴き風車。

そんなドラゴンを呼ぶ音なんて、存在するのか?

「ただの偶然じゃないですか?」

実際あの風車が鳴いてから、ドラゴンがやってきたように感じだが、ただの偶然じゃないのか?

でも、いつも口を挟んでくるオリーが黙って聞いてる。

つまり鳴き風車の話は、あり得なくはないのか?

「一回や2回なら、鳴き風車なんて呼ばれてないよ。マヤちゃん達ここら辺の人達じゃないね。この地域に住んでいる人達は、この風車に絶対に近づかないからね」

そんな危ない所だったのか。

じゃあ今後一切この場所に、近づかない。

急いで迂回しよ。

「じゃあ、ドラゴンの所に一緒に行こうか」

「なぜ?」

「この風車を壊してくれって依頼されたんだよね。私力あるし、楽勝かなと思ってだけどドラゴンに空飛ばれたら何にも出来ない事にさっき気付いた」

「もっと早めに気づいてください。てか、ドラゴンを倒さなくても風車だけ壊せばいいじゃないですか」

「無理無理。風車怖そうとすると、容赦なく殺されそうになるから。それで、どうしようかなーと思ってたら超高速で空を飛ぶマヤちゃんを見つけたんだよね。もうピーンときたね。この子と一緒ならドラゴンを倒せるとね」

意気揚々とアセビは、マヤの手を掴み語っている。

鉄が手に食い込んで痛い。

それが表情に出たのかもしれない。

「ごめんごめん」

パッと手を離してくれた。

この人さっきのドラゴンの話といい、あまり後先考えてないタイプだな。

私と一緒かも。

「えーっと。嫌です」

でも、断ります。

いくら私が速いからって、またドラゴンと速さ比べするのは嫌だ。

助けてくれた事には、お礼を言ったから箒に乗ってにげよ。

そう決心して、左手に箒を出す。

「待ってよ。ほら、当然この鳴き風車を壊せば、報酬が出るんだよ。マヤちゃんにもその分の報酬渡すからさ」

アセビは、マヤが空を飛ぶのを遮るように目の前に小袋を見せた。

その小袋は、外側を見ただけでその中に銀貨が大量に入っているのが分かった。

「やります!!」

もうドラゴンがどうとか、どうでもよくなった。

この袋の中身からマヤに配分されると考えれば、これから先の旅の路銀をだいぶ賄う事が出来るだろう。

「マヤ。お前は、どうして何も考えないんだ。こいつが一体誰から依頼を受けているのかとか、少しは考えた方がいいぞ」

「オリーくんは、マヤちゃんのお父さんみたいだね」

こんな口の悪い父親は、嫌だなー。

いや、本当の両親も決していい人ではなかったが。

「とりあえず誰に依頼されてるかって話だよね。これは、単純にここから少し先に街があるんだよね。そこで、私がその風車を壊してやるよって言って、この依頼を引き受けたわけだよ」

「見ず知らずの誰かに、こんな高額の依頼をする街なのか?」

「そこは、私の交渉の腕が良かったって事かな」

この人あまり口が回るように見えないが、どんな交渉をしたんだろうか?

オリーが言った通り、アセビと名乗る女騎士は怪しいところもある。

だが、それ以上に私はアセビが持って袋の中身が必要だ。

私は、覚悟を決めるように風車とその風車の周りを飛んでいるドラゴンを見た。

あーあ。

村にいた頃は、まさか自分がドラゴンと戦う事になると思っていなかったな。

「やっぱりやります」

マヤは、さっきより震えた声でアセビに言った。

あのドラゴンと戦うという事を、実感して体が震え始めたからだ。

「いやー、助かるよ。じゃあ、ちょっと作戦会議にしようか。流石に無策じゃあのドラゴンを倒せそうにないしね」

良かった。

いきなり腕引っ張られて、ドラゴンに突っ込んでいったらどうしようかと思った。

だが、私はアセビの作戦を聞いた時、私は心底後悔する事になる。

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自称魔女と魔導書 @twweqte2

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