第3話 女騎士と風車とドラゴン1

大魔女になる予定のマヤです。

緑の草が生えたどこまでも広がる大地。

虫や鳥の声しか聞こえない静かさ。

そんな場所を得意の箒で空を飛ぶ魔法で、悠々自適に旅を続けています。

いや、携帯食も銀貨も尽きてしまっていますが、空は全てを忘れさせてくれます。

「あーあ。空から銀貨が降ってこないかな」

「魔女なら降らせてみればいいたろ」

「そんな事出来たら苦労しないでしょ」

オリーは、相変わらず嫌な奴だ。

ただ生活が苦しいのは事実で、ここ3日まともに食べてないので空腹で倒れそう。

オリーは、食べなくていいからずるい。

どこかの街で、路銀を稼ぎたい。

何か稼げるものはないか。

「なんだあれ?」

オリーは、何かを見つけたようで布袋から顔を覗かしている。

空腹に負けて意識が朦朧としていたが、その言葉を聞いてよく周りを見てみる。

前ばかり見ていたから、気が付かなかったが左の方に何か建物があるようだった。

「風車?」

羽根も土台もボロボロになり、強い風でも吹けばバラバラになってしまうだろう。

今も風が吹いている為、羽根が叫び声をあげるように回っている。

「この風車何の為にあるの?風車以外に建物も人もいないよね」

風車の動力を利用する建物や風車を利用した土地が、ここにはまったくない。

「それだけじゃない。ここは、余りにも不自然だ。周りは森で囲まれたいるのにこの場所だけ、野原になってる。明らかに人の手がかかっている。それなのに、あるのはあの風車だけだ」

オリーが言った通り、ここは不思議な場所だ。

そして、私は不思議な場所が好きだ。

「じゃあ、ある風車調べようか」

「お前好奇心に従ってると、いつか死ぬぞ」

オリーが忠告してくる時は、その場所に魔法の痕跡が見られる時だ。

魔導書は、人には見えない魔力痕が見れるらしく、それがある場所は何かしらの魔法が使われた場所らしい。

まぁ魔法に関係している事を見逃す訳には、いかないから風車の方向に身体を向ける。

そうした瞬間に今まで以上に、風が吹いた。

すると風車は、羽根から奇妙な音が野原に響いた。

すごい不快音だけど、何かの生き物の鳴き声に聞こえる。

ちょっと大きい帽子が飛ばされないように、左手で頭を押さえる。

「おい!にげるぞ!!」

オリーがこんなに慌てるなんて、珍しい。

ちょっと焦る。

そして、何から逃げたらいいのか分かる前に、目の前で何が落ちてきた。

落ちてきた物が、とんでもなく重いと分かる。

地面がへこんで、その衝撃でマヤは吹き飛ばされてしまった。

すごいでかい拳で、ぶん殴られたような衝撃。

体どころか、意識さえも吹き飛びそうになる。

「寝るな」

バチン!

体全体に電流が走る。

体全体が痙攣し、意識を強引に戻す。

すごく痛い。 

ゲホゲホゲホと口から空気が出る。

けれど、この感じオリーによるものだろう。

魔導書とその所有者は魔力の繋がりがあるらしく、それによって魔法をお互いに送る事が出来る。

ただ私は、空を飛ぶ事しか出来ないので、オリーから一方的に魔法が送られてくる。

この方法を使って、オリーは私に魔法を教えてくれた。

ちょっぴり懐かしい気分になる。

「いやいやいやいや私。懐かしい気分に浸ってる場合じゃないよ」

意識は、戻ったが痛みで立ち上がる事が出来ない。

「箒で飛べ。手は動かせるんだろ」

そっか。

オリーが言った通り、その方法なら出来る。

なんとか左手は、動かせた。

ひょいと箒を出す。

浮いてる箒を左手で、捕まえる。

ふわふわと箒で、浮かんでいきます。

「ドラゴン?」

「そして、めちゃくちゃ怒ってる」

巨大な刃物ような爪。

全身ゴツゴツした岩に近い皮膚。

風車の倍くらいある巨体。

その巨体を浮かす巨大で、丈夫な羽。

黄色い目は、明らかにこちらに敵視してる。

つまりこの状況が、何を示しているのか。

「あー。死にました」

そう死です。

食物連鎖とゆうものは、残酷なものです。

「一応逃げてみろ」

ドラゴンを刺激しないように、背中を見せないようにスィーと後ろに下がります。

村では、危険な動物にあった時は、背中を見せてはいけないと習いました。

さて、ドラゴンにも通用するか。

「グヴァァオ!」

口が大きく開き、鼓膜が破れそうな咆哮。

開いた口の中は、無数の牙が揃っており、その強靭な顎と共に岩石なんて簡単に噛み砕いてしまうだろう。

その口を見た瞬間、マヤは自分が出せる最大スピードで背を向けて逃げる。

村で教わった事なんて知るか。

後ろを向いて逃げたのと同時に、背中に思いっきり何かに押され、バランスを崩す。

「いったーい!何!?」

「ドラゴンが飛翔する時の風圧だ。つまり今から、空飛んでお前を追うぞって事だ」

オリーが言った通りに、ドラゴンは私を狙っているらしく、どんどん風圧が近づいて来るのを感じる。

箒で飛べる速度は、そいつが持ってる空を飛ぶイメージの元で決まる。

鳥とか虫。

私の場合は、師匠。

つまりイメージの元より速く飛ぶ事は、出来ない。

だから、ドラゴンには到底敵わない。

「でも、私は違うんだよな!」

自分が思っている師匠のイメージを、抜かすようにどんどんスピードを上げていく。

後ろから追っているドラゴンを、どんどんと突き放していきます。

何故かは分からない。

私は箒で空を飛ぶ事だけは、イメージ以上のことが出来る。

「本当に箒で空を飛ぶ事だけは一流だな。ただ」

オリーが言い終わる前に、チリチリと背中が焼けるような感覚。

これは、ドラゴンによるドラゴンの為の技。

炎を吐く。

ドラゴンは、生まれつき体に魔法が刻まれており、巨大なリソースを使ってとてつもないよ。

つまり私は、こげるよ。

悲しいね。

「女騎士アセビ!見参!ドラゴンを退治に参りました」

音も無く、姿もなく唐突に女騎士が現れました。

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