『深泥丘奇談・続々』 綾辻行人

《あらすじ 角川文庫より引用》


頁をめくったが最後、あなたも「深泥丘」世界に囚われる!

さまざまな怪異が日常に潜む、"もうひとつの京都" ──妖しい神社の「奇面祭」、「減らない謎」の不可解、自宅に見つかる秘密の地下室、深夜のプールで迫りくる異形の影、十二年に一度の「ねこしずめ」の日……恐怖と忘却の繰り返しの果てに、何が「私」を待ち受けるのか?

本格ミステリの旗手が新境地に挑んだ無類の奇想怪談連作、ここに終幕。解説・橋本麻里


《評価》


総合    :★★★★★

キャラクター:★★★★★

ストーリー :★★★★★

構成    :★★★★★

世界観   :★★★★★


《ネタバレ避け感想》


三作連続で読み耽り、とうとう終幕へ。変わらず謎は散りばめられたままで、一周目の私には謎が上手く繋がらないままでいる。最後まで読み進めて「もう一度最初から読みたい」と思える読書体験が叶った面白い作品でした。



















《ネタバレ感想》


 綾辻先生の手がける"不思議なもう一つの京都"を舞台とした奇談集は、三作目にして終幕となりました。最後まで読んだ私の衝撃はこうです。


──えっ、私が忘れてるだけかな。


 深泥丘奇談シリーズでは、主人公が自らの記憶の胡乱さに戸惑いを感じながら様々な怪異と出会い、そして忘れてゆきます。

 私は彼の語り口を通して半月程度ですべて読みました。ただ、忘却曲線なるものがあるように人間の記憶とは曖昧なもので、エピソードの中で語られた細かな要素が記憶から抜け落ちているのを確かに感じるのです。

 もしかしたら、前作、いや前々作に記載があったかもしれない。しかし語り手の記憶の曖昧さ通り、特に記載はなかったのかもしれない。最後まで読了して、あれ?どうだったっけ。と疑問が次々に沸いてくるのです。最後まで読んでも謎解きのできないもどかしさ。頼りにならない自分の記憶たち。

 一番最後のお話では、主人公の妻の旧姓が咲谷であることと、名が由伊であることが明かされました。一作目からお馴染みの咲谷看護師と同じ苗字であり、その咲谷看護師は主人公の妻と同じく猫目島の出身であることが分かるのです。このことから、エピソード『海鳴り』で語られた"彼女"とは妻のことだったのだと理解できるわけです。ただ、残念なことに分かったのはそれだけだったのです(私の読解力の問題も大いにありますが)。

 今作でもふんだんに「──ような気がする」というフレーズが登場します。語り手の曖昧な記憶につられて、読み手の私もまんまと記憶をぐちゃぐちゃにされました。最後のあとがきと解説を読んでやっと時系列が理解でき、このお話の全体像が浮かんできました。

 それから最後に思ったことは「もう一度始めから読んで確認したい」です。ミステリ作家の書く怪異談にしてやられた!と思いました。まるで推理小説を読んだ後で、伏線を探す為にもう一周したくなるような感覚です。ホラーでこの感覚を味わったのは初めてでした。

 恐らく(というのは私がまだ二周目をしていないからですが)、すべての謎が解けるわけではありません。最後に開示もされません。ですが、どうしてか読み解きたくなる。そんな魅力に詰まった作品でした。二周目はできることなら一日で三作読み切って、メモなんかとりながら読んでみても良いかもしれないと目論んでいます。

 ちなみに余談ですが、続々のエピソード『海鳴り』の中で、小野不由美先生の『奇談百景』の小タイトルたちが登場し、小野先生の大ファンたる私はその遊び心に大興奮しておりました。

 さて、これで綾辻行人先生の『深泥丘奇談』シリーズの読書記録は終了となりますが、これを読んだ方がシリーズを読み、あわよくば私に解釈を教えていただけると幸いです。

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