第7話 死んでいる。

「報告します。山にゾンビを二体発見しました。付近には転落した車が一台ありました。死亡し、ゾンビになったと考えます。現在身元の確認と転落した理由を調査中です。」


「ふ~ん、ありがと。それともう一個。このあたりの集落ってどこにある?もしかすると今頃犯罪にでも手を染めてるかもだから」


 通報と隊員の持ってたレコーダーからして、人間がいるのは確定だからね。今頃お腹がすいてるころだろうね。


「──ありがと。じゃあそこ行ってくるからあとは頑張ってね~……んじゃ、ちょっと殺しに行きますか」


 ***


「湯加減はいかがですか~?」


「ちょうどいい~でも下のほうだけめっちゃ熱い」


 只今入浴中です。風呂に入りたいと言ったら、作ってくれたドラム缶の風呂。


 はっきり言ってめっちゃ良い。


「良いな~私も入る!」


「ちょちょちょちょ! 何してるの!?」


「何って、私も入るんだよ? なんか文句ある? 私だって風呂には入りたいんだよ!」


「僕がいるんだよ!?」


「……あ~そういうこと? 大丈夫でしょ? 一緒のお湯につかったってゾンビにはならないよ! 知らんけど!」


 そこじゃない! そこじゃないんだ! いや、何かやましいことは考えてはない! そもそもがねーちゃんだから! あのうざったかったねーちゃんだから! 落ち着いてるから!


「……もうちょい詰めてよ、入れないでしょ!」


 目はつぶっている。だが段々と入って来ていると分かる。


 水位が上がってきてあふれ出し始める。


 溢れんるのも収まり背中と背中が合わさる。何故こんなにも熱いのかは分からない。


 だがひとつハッキリしたことがある。姉の背中はもう暖かくないという事だ。冷たい肌を感じながら、申し訳なさを感じる。


「はぁ~いいお湯だね~ドキドキしてるでしょ? 伝わってくるよ、鼓動が早くなってるのが」


「ねーちゃんの心臓はもう動いてないの? 体は動いてるけど。」


 正直言ってそこがよくわかってないからな。どこまで機能してないのか、回復はどうなっているのか、もはやゾンビの域を超えている。ただ腐った死体ではない。


「確かめてみる? ほら、簡単だよそっと私の胸に手を当てるだけだから。」


 こんな時までからかってきて……全くねーちゃんは能天気なんだから……


 ──水が大きく揺れ、後ろから手が伸びてきてそっと抱きしめられる。背中に押し付けられた感触が思考を一瞬停止させる。


「分かった……? 私はもう死んでるの。」


 自分の鼓動がうるさいが、これだけ密着しているのにもかかわらず感じられる心音は一つだけ。


「良いな~……温かい。この体は動くけど機能はしてないんだよね。よく分からないけど傷が治る機能とか凄い機能は備わってるんだけどね。」


 もう一度理解する。


 理解はしていたが、やはり受け止めきれない。


 ねーちゃんは僕を助けたせいで人ではなくなってしまった。


 僕の責任であるということを。悪魔となり恐れられ、いつ殺されてもおかしくない中生きていくという道にしてしまったということを。


 もし僕を助けないという選択をしていたら運よく人として生きて行けたかもしれない。ねーちゃんをこうしてしまったのは僕であると。


「もっといっぱい美味しいもの食べてみたかったな~。今私が人間だったらどのぐらいドキドキしてるんだろうな~結婚していい家庭作ってみたかったな~。歳をっ取って静かにみんなに見送られたかったな~」


 楽しさも、感情も、未来も、最期まで壊して……何一つ幸せじゃない辛い道。自己嫌悪に押しつぶされそうだ。


「……でもね、こっちの生き方も案外楽しいよ? 確かに味覚はないけど、美味しそうに食べてるところを見ればなんだかおいしく感じるし、今だって少し恥ずかしいって感情はあるんだよ? 人間だったら秒で離れちゃうだろうね。ご褒美だね! 死んじゃうのは死んじゃうのは嫌だけど絶対に死なないだろうから最期まで一緒に居れるしね。悪いことばかりじゃないよ?」


 そう言ってくれるだけでも少しは救われる。けど、深く、深くしみ込んだこの罪悪感は消えないだろう。せめてこれ以上迷惑を掛けないように。少しでも幸せになってもらう。


「ほら、おねーちゃんに抱き着かれてどんどん赤くなってるよ?」


「抱き着いてきて出れないからのぼせてきたんだよ!」


 顔を洗い、流し去り、風呂を出る。


「牛乳ほしい! やっぱり風呂上りは牛乳だよね!」


「じゃあ今ねーちゃんが向かいたいって言って向かってるのは牛乳が飲みたいからなんだね?」


「そう! 豆乳でもいいんだけどね別に! 白くて冷たければいいと思う!」


 なんでも良いのかよ……白くて冷たければって、飲むヨーグルトとかでも良くなっちまうぞ?


「牛乳取ってくるなら一緒に夕ご飯もかっぱらって来て」


「いいよ~何食べたい?」


「食べれればなんでもいいよ」


 他愛もない会話。そこに水は差された。


「──おっと~それはいけない事だよ」

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シスターゾンビ 天然無自覚難聴系主人公 @nakaaki3150

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