第9話 なるほ…ど?

 「こんなときだから、オリンにも働いてもらわねばならん。とりあえず、食堂で野菜の皮むきなど、料理の下ごしらえをやってくれ」


 副隊長(名前を覚えるのは諦めた)にそう言われて、あたしは膝で手を打った。


「なるほど! 六文銭を持ってこれなかった者は、自分で稼げってことか。たしかに、誰も彼もがそう都合よく六文銭を持ってこれるわけじゃないからね」

「は? お前はまたよく分からんことを……」


 副隊長はため息を吐いて、「もういいから行け」とぞんざいに手を振った。

 「あいよ」と軽く応えて食堂へ向かうあたしの後を、ライサがついてくる。


「オリン、もうちょっと副隊長への態度を改めたほうがいいよ」

「え?」

「副隊長は貴族だ」

「へ? お公家様かい? そりゃあ高貴なこって」


 気負わずに答えたあたしの目の前で、ライサが額に手を当てた。


「そうそう。『オクゲサマ』が何かは知らないけど、高貴なお方だから、気安い態度を取っていては本人はともかく周りが許さないんだ。本当に気を付けないと、首と身体が離れ離れになるよ」

「ひっ! そんなにかい? くわばらくわばら」


 あの世に来てまで首を切られるなんてと、あたしはギロチンを想像して首を撫でた。


 ――副隊長には近づかないようにしよう。そうしよう。


「あ、というと隊長も?」

「もちろん」

「ひぃっ!」


 あたしは両手を首を隠すように当てて、下を向きながら歩いた。上から切られたら終わりではあるが、さすがに歩きながらギロチンは落ちてこないだろう。そう思いながらもチラリと上を見たのは、ここでは何が起きても不思議ではない気がするからだ。

 「何してるんだい」とライサに笑われても、あたしは首に置いた手をしばらく離すことは出来なかった。

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