第5話 せいじょ? いいえ、詐欺師です

 あたしは先ほどと同じように、生前の行いを包み隠さずに話した。

 大の男二人が、頭を抱えている。あたしは、地獄行き確定だろうか。

 長くなりそうだからと、座るように促されて、柔らかい椅子に腰を掛ける。越後屋にも、異国から入った珍しい家具などはあったが、こんなに柔らかい椅子に座るのは初めてだ。

 どこの国から来たのかと聞かれ、生まれの「武蔵国むさしのくに」と答えたが、そんな国は知らないと言われた。


「なんでそんなことも知らないんだよ。あたしを馬鹿にしてんのかい。話が分かる、上の人に会わせておくれよ。このまま地獄行きじゃ、あんまりじゃないか」

「いいから座って」

「隊長、これはもしかしたら」


 カールなにがしかが、きんぴか隊長に耳打ちする。どんな驚くことを言ったのか、きんぴか隊長の身体がびくっと震えて、その青いびいどろのような目が大きく見開かれた。


「聖女、だって? 確かに黒目黒髪で16歳だという聖女の条件に、該当しそうではあるね。ちょっと君、歳はいくつ?」


 ――せいじょ?


 聞いたことのない言葉だが、なにかの隠語だろうか。とりあえず歳を聞かれたことは分かったので、端的に答える。


「30」

「「はあっ?」」

「あ、今の見た目は16くらいの小娘か」


 胸に両手を置いてみたが、そこには何のふくらみもない。


「でもそれは、あたしのせいじゃないだろ。あんたらの上司の好みなんだろうけど、あたしは迷惑だよ」


 つるーんでぺたーんな胸には、谷間が見当たらない。


 ――財布を隠すところが、またひとつ減ってるじゃないか。この服も仕事には向かない。って、ああ、だからか。


 髪にも胸にも着物にも、すった財布を隠すことができない。掏りスリは止めろということだろう。さすがは閻魔様だと、あたしは感心した。


「これは、いくらなんでも違うんじゃないの? 聖女というには品がないよ」

「いや、しかし……、聖女に品があるとは、どこの文献にも載っていなかったはずです」

「それはそうだけど……」


 論点がおかしい、というか、単に失礼だ。品のあるなしを目の前で話されて、あたしは苛々したが、昔(生前?) 取った杵柄、上品な娘のように立ち姿から変えてやった。


「私のことを品がないだなんて、ひどいことを仰らないでくださいませ」

「ぬっ?」

「おや、これは」


 二人が狐につままれたような顔をしたが、あたしはにっこりと微笑んで答えた。


「詐欺師だって言ったじゃないか。品がある振る舞いなんて、朝飯前さ」


 あたしの言葉を聞いた二人は、苦虫を嚙み潰したような顔になる。表情豊かな男たちだ。


「こんな聖女は嫌だ」

「隊長の好き嫌いはどうでもいいです。とりあえず、見極めのためにも騎士団預かりとしましょう」

「はぁ、分かったよ」


 ――きしだん、あずかり。


 それが何のことかは分からなかったが、とりあえずすぐに審判とはならないことは分かった。

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