言葉に属性を与える

この記事はレベル2の「言葉に字面以上の意味を持たせる」の応用です。

https://kakuyomu.jp/works/16818093075666037277/episodes/16818093076816767053


「傘なんて要らない良い天気だ。でも、昼過ぎには雨が降るらしい。

 今は晴れやかな気分なのだけど、数時間後のことを思うと心が沈む。」


これで「良い天気」=「晴れやか」、「雨」=「心が沈む」、という属性が確定しましたね。コモンセンス的な属性分けなので、特に説明が無くても、読者はなんとなく、そういった言葉のイメージを認識できるはずです。


「家じゃ洗濯物が干せないので、乾燥機に硬貨を入れた。化繊の衣服だけを取り出して、洗濯機がガウガウと唸るのを背中に聴きながら、ランドリー外の雨模様を眺めた。」


どうですか。この場面。「心が沈む」という意味の表現が一切入っていないのに、特に「外の雨模様を眺め」る動作に何となくネガティブな感情を読み取れるのでは無いでしょうか。


こういうのが情景描写です。国語の問題の理不尽な題材として情景描写を挙げて日本の国語教育を揶揄する人を頻繁に見かけるけれど、情景描写って相当な高等テクニックだから並大抵の読解力というか、文章力では読み取れないし書き出せないのよ。


で、なぜ「心が沈む」という直接的な記述をせずに、気分が沈んでいることがうっすら読み取れるのかというと、「雨」が降っているからなんですね。ここで先程確認した属性の付与というテクニックが効いてくるわけです。


さらに言うと、主人公が「乾燥機」を回さなければならないのは、雨が降っているせいで家に干し場がなくなってしまったからなんですよね。「雨」がネガティブ属性の言葉なので、当然、「乾燥機」を使用する行為もネガティブな意味を持ってくるんです。こうして言葉に辞書的語義以上の意味を持たせることで、小説は読み応えが出てくるのです。

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