第2話 新たな仲間
次の日の朝、レインが目を覚ますと窓辺に立ち準備運動をしているアスティが目に入った。
「おはよう、レイン! 今日はダンジョン攻略の仲間を探しに行くんだよね? 俺はもう準備できてるよ! レインも早く支度しなよ!」
まだ目覚めたばかりのレインはアスティのテンションの高さに顔を顰めた。
朝食を済ませ、宿を出た二人はダンジョン攻略の仲間を探すため、広場の募集掲示板を見ていた。
「ダンジョンを攻略するのに、どんな仲間が必要かな?」
「まずは回復役だな。あと、出来れば守りの固い前衛役と荷物持ち……はお前がやればいいか」
「え、俺!?」
「元気が有り余ってるんだろう? 丁度いいじゃないか」
レインは意地悪そうな笑みを浮かべて言った。
「――君、もしかして魔法使いかい?」
掲示板を見ていた二人に若い男が声を掛けてきた。男はアスティには目もくれず、レインを見てそう言った。
「そうだが?」
「僕のパーティ、当てにしてた魔法使いがいなくなっちゃってね。よかったら一緒に参加してくれないかな? もちろん報酬は弾むよ」
そう言って爽やかな笑みを浮かべる男の後ろには三人の女性が控えていた。
「トリオンってば、またナンパしてる!」
「可愛い子は何人でも大歓迎よ~♪」
「……はぁ、弱そ」
栗色の癖毛に獣耳を生やした少女が可笑しそうにはしゃいでいた。その隣で、背の高い美女が嬉しそうな微笑みを浮かべ、舐めるような目でアスティを見ていた。
ぬいぐるみを抱えた小柄な少女が退屈そうにため息をつく。
「トリオン?」
レインが男の顔を見て聞き返す。
「ああ、そう。僕はトリオン。トリオン・リーバーだ」
「……そうか。俺はレイン」
「あ、アチシはパピール! パピちゃんって呼んで!」
「私は、シャリーンよ。こっちの不愛想な子はリラーラ」
「俺は……」
「あ、僕のパーティに男はいらないんだよね」
トリオンがアスティの挨拶を遮って言い放つ。
「え? いや、でも…レインと俺は仲間だし、ね、ねぇ?」
「……悪いな、アスティ。俺はトリオン達と行くことにする。アスティは別の仲間を見つけてくれ」
「ええ!?」
突然の戦力外通告にアスティはショックを受ける。
「ならば、そこの彼は私が引き取ろう」
「へ?」
アスティが振り返るとそこには鎧を着た体格のいい男が立っていた。男はひとまとめにした長い金の髪をなびかせて自己紹介を始める。
「私はこのダンジョンでガイドをしている、アルカルファンだ。ダンジョン初心者のサポートもしているから仲間がいないのなら私のパーティーに入るといい」
「はぁ、はあ……」
「よかったな、仲間が見つかって」
戸惑うアスティにレインが声を掛ける。
「さぁ、他の仲間のところへ案内するよ。行こう!」
「え、あの……」
「アスティ。ほら、念願のダンジョン攻略だぞ。気張ってけ!」
レインは思い切りアスティの背中を叩いた。アスティは引きずられるようにしてその場を去った。
「あそこにいる子達が俺の仲間だよ」
「え?」
アルカルファンが指を指した方をみると、三人の少年少女が立っていた。
「あ、アルカさん! やっと戻ってきた」
戻ってきたアルカルファンに気づいた少女が声を掛けた。隣にいた少年が、アスティを見て嫌そうに顔をしかめる。
「げ、男じゃん……」
「こら、カナト。そんな風に言うんじゃない。彼もこのパーティーに参加するんだからね」
「あ、コイツ! 昨日のナンパ男!!」
ツインテールの少女が、アスティの顔を見るなり指をさして叫んだ。
昨日、声をかけた少女であることに気が付いたアスティは、その隣に立つ同じ顔をした少女を見て言った。
「ソラ?」
「え?」
「俺だよ俺。アスティ! アスティ・ハルハイト!」
「あ、アスティ!? え~! 仮面してないからわかんなかった!」
「え、ソラの知り合い?」
「リサ、彼だよ。教会で私達を助けてくれたの」
「え? コイツが? …ふ~ん」
二人の間に割り込んで来たリサラが値踏みするような視線を向ける。
「アスティ、ナンパしたの? リサの事……」
「え、違……! ソラかと思って声を掛けたんだ」
「ああ、そういう事……って、それってソラのことナンパする気だったって事!?」
「は? 違う違う!」
「クソ陽キャかよ……」
双子とアスティの会話を見ていたカナトが忌々しそうな顔をした。
「なんだ、三人は知り合いだったのか」
「まぁ、私はほぼ初対面だけど」
「じゃあまずは自己紹介から始めよう。私はダンジョンガイドのアルカルファン。気軽にアルカと呼んでくれ」
「俺はアスティです」
「私はリサラ」
「リソラです。」
「……カナト」
「今回はこの五人パーティーでダンジョン攻略に挑戦しようと思う。みんな仲良くするように」
「あれ、あの狼の子はどうしたの?」
アスティの質問にリサラが答えた。
「ああ、アーくんはちょっとね……」
「今は事情があって、別行動してるの」
「そうなんだ」
「そう、だから私たちアーくんのためにも絶対にダンジョンでお宝を見つけて帰ってくるつもりなんだ」
「お宝?」
「そうさ、このダンジョンにはいくつかのお宝が隠されていてね、見つけた物は持ち帰っていいルールなんだ」
「へー」
アスティはお宝という言葉に胸を躍らせた。
「お前、剣士なの?」
カナトがアスティの腰に下げた剣を指さして言った。
「剣士って訳じゃないけど……、多少は戦える、かな?」
「君は?」
「はぁ!? ぼっ、僕のことはどーだっていいだろ!」
「あ、はいはーい! 私、魔法使えまーす! 火の魔法!」
「わ、私は…、何も出来ないので荷物持ちします……」
「そうかそうか、みんなやる気に満ちていていいね。でも大丈夫、前衛は私が務めるから、君たちは安心してダンジョン攻略を楽しんでくれたまえ」
アルカルファンは快活に笑った。
こうして、アスティはこの寄せ集めのパーティーでダンジョン攻略を始めることになったのだった。
冥府の剣はかく語りき ~異世界転生した俺が主人公になれないわけがない~ 壱春 @01_haru
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