冥府の剣はかく語りき ~異世界転生した俺が主人公になれないわけがない~
壱春
第1話 次の物語
鬱蒼とした森の中、一人彷徨い歩く少年がいた。
彼は折れた枝を杖がわりにしながら、道なき道をだたひたすらに歩いた。
「ちくしょう…いい加減出て来いよ……。何なんだよ、おかしいだろうが…どんだけ歩き続けてると思ってるんだ。もういい加減、出合わせてくれよ…、エルフ耳でもケモ耳でも何でもいいから……もうこの祭、スライムっ娘でも構わないか、ら……」
ついに力尽きた少年はうわ言のように求め続ける。
「はやく、僕を……」
はじめに忠告しておくならば、彼はこの物語の主人公ではない。私の知る限りでは……。
なので、彼の物語を読む前に別に新しく始まろうとしている物語を見てみることにしよう。
それは彼らがまだ出会う前の出来事だ――。
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地鳴りのような音が建物全体を揺らした。その後、キィキィと甲高い鳴き声が無数に重なり合い、二人の若者がその音の塊から逃げるように狭い通路を走り抜けてゆく。
「…ぅわあああああああああああっ!!」
レインが、前を走るアスティに悪態をついた。
「だから用心しろと言っただろう!」
「そ、そんな事言ったって、アレが罠だなんて思わないだろ!?」
「こんな狭い所じゃまともに戦えない。とりあえず、さっき通った広場まで戻るぞ!」
二人は後ろから襲い掛かってくる無数のコウモリを避けながら、広い場所へと向った。
通路を抜け、開けた場所へ出ると、レインがコウモリの群れ目がけ、氷の刃を放つ。コウモリの群れは刃を避けるよう散り散りになると、壁の影へと身を隠した。
「シャドーバットか……。厄介な相手だ」
「コウモリの魔物?」
「ああ、奴らは司令塔となる一匹を殺さない限り永遠に襲いかかって……あぶない!」
アスティが物陰から飛び出してきたコウモリを剣で薙ぎ払う。すぐに別のコウモリが飛び出し、絶え間ない攻撃に二人は翻弄される。
「レイン、このままじゃ……」
「仕方ない、オレが隙を作るから、アスは剣を使え」
「……やるしかないか」
レインはアスティから距離を取るように走り出し、コウモリを挑発するように氷の刃を放った。
「こっちだ!」
攻撃を受けたコウモリの群れが一斉にレインを攻撃しはじめる。
アスティは持っていた剣を両手で握り締め、目を閉じた。
「……かつて四天の大地に在りしもの、我は冥府の門を開く者なり。……今、
アスティは天に掲げた剣を地面に突き立て叫んだ。
「
瞬く間に出現した魔法陣から一匹のコウモリが姿を現した。レインが飛び立つ前のコウモリ目掛けて魔法を放った。一瞬にして凍り付いたコウモリはゴトンと音を立てて、地面に落ちた。
「うわっ」
「殺せ」
「え、あ……うん」
地面に落ちたコウモリをアステは剣で突き刺した。その瞬間、コウモリは高い高周波を放ち、建物全体大きく揺らした。
物陰に隠れていたコウモリの群れが一斉にアスティに向かって飛び出してきた。
「――凍れ」
レインの氷魔法によって凍らされた群れの塊は地面へと落下した。
「アスティ、その中心にいるコウモリが司令塔だ」
「……」
アスティは無言でそのコウモリを貫いた。
「俺、もうこのやり方ヤなんだけど。なんか悪役っぽい」
「文句があるなら、他の使い道を考えろ」
「むー」
反論出来ないアスティは頬を膨らませる。
「……だいたい何でオレがダンジョン攻略なんてめんどくさい事をやらなければならんのだ」
「そんな事今更言っても、仕方ないだろ」
「……とりあえず、下見はこのくらいで十分だろう。街に戻って作戦を考えるぞ」
事の起こりは、彼らが『花の都・リアフォルン』での物語を終え、次の物語が待つ街へとたどり着いたことからだ。
・・・
「ここが『時計の都・リーベル』か……、うわー、でっけー」
アスティは見上げるほど大きな時計台を前に目を輝かせた。
「とりあえず、石賢者のところへ行こう」
「石賢者?」
「オレの古い知り合いだ。リソラ達にはそこへ行くように伝えたから、もしかしたらまだこの街にいるかもしれない」
「ここに来るまで色々寄り道しちゃったからな。まだ居るといいんだけど……」
アスティはレインの後を追って、街の中心地へと足を運んだ。
「ここで少し待っていろ……」
「え、うん。わかった」
レインは一人で工房の中へと入っていった。
アスティが工房の前で街を眺めていると、子供たちが楽しそうに街を駆け回っているのが見えた。
「ドラゴンライダーがいるんだって!」
「え、ドラゴンライダー!?」
「どこに?」
「あっち! あっちの広場で見たよ!」
「見に行こう!」
アスティはドラゴンライダーという単語に興味を惹かれ、思わず少年の後を追う。
少年たちが駆けていった場所には沢山の冒険者で溢れかえっていた。
「すごい人……」
アスティは人込みに圧倒されてしまう。その中に見知った顔を見つけて、思わず声をかけた。
「あ、君……!」
「え?」
声を掛けられ振り返った少女は怪訝そうな顔をした。
「なに?」
「あ……」
「もしかしてナンパ? ……キモ」
少女はそう吐き捨てるとツインテールの髪をなびかせて、アスティから離れていった。
「……帰ろ」
アスティは傷ついた心を癒すように身を縮めた。
工房まで戻ると、丁度レインも店から出てきたところだった。
「アスティ、どこ行ってたんだ?」
「あ、ちょっと広場の方に……、レインの方は?」
「留守だった」
「え、じゃああの三人は?」
「どうやら三人も彼と一緒に出かけているらしい」
「え、どこに?」
「……これだ」
レインはうんざりした表情でチラシを差し出した。
「何これ? イベントのお知らせ? ……えっと、ダンジョン攻略大会?のお知らせ?」
「そうだ」
「ダンジョンって……あのダンジョン?」
「あのってなんだ。ダンジョンはダンジョンしかないだろう」
「ダンジョン……」
「この街は今、ダンジョン攻略のイベントを開催しているらしい」
「ダンジョン攻略!!」
「な、何だ。まさかお前も参加するとか言わな……」
「参加する!!」
アスティは思わず大声で叫んだ。
二人はイベントへ参加するために受付のある広場へとやってきた。
「この申し込み用紙に名前を書いて受付に出せば参加可能だそうだ」
「ありがとう」
レインが受付から申込用紙を受けとりアスティに手渡す。
「言っとくが、オレは行かないぞ」
「え、なんで!?」
「地下ダンジョンなんて、暗くて辛気臭い場所、誰が好き好んで行くか」
「暗くてって……あ、もしかして怖いとか?」
「はぁ!? 誰がそんな事言った!?」
「ち、違った? でもダンジョンって言っても街のお祭りみたいなもので、そんなに危険はないって話だろ?」
「危険があってたまるか。ただでさえ面倒なのに、好き好んで行く奴の気が知れない……」
「まぁまぁ、とりあえず様子だけ見てみようよ。レインの知り合いも参加してるんだろ?」
そう言って気軽に足を踏み入れたのがあの場所だった。
二人はダンジョンから帰還し、街へ戻った。
「割と楽しかったね。想像以上にダンジョンって感じだった」
「なにがそんなに楽しいのか知らんが、あのダンジョンに挑むなら、オレたち二人だけでは無理そうだな」
「え、じゃあダンジョン攻略やめるの?」
「……別にやめるとは言ってない」
「ホントに!?」
「だたし、やるならきちんと装備を整えてからだ。イベント期間中は何度でも挑戦可能らしいから、明日仲間を探してみるか」
「仲間!? それはどこで!? どこで募集するの!?」
「なんでそんなに興奮するんだよ、変な奴だな」
「んん……ご、ごめんなんかこう心の中の少年がうずき出してしまって……」
「?」
その後、二人は宿を借りた。レインは早々に布団へ入り就寝したが、アスティは興奮してなかなか寝付けなかった。
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