前世ルーレットの罠 (負のスパイラル)

帆尊歩

第1話 負のスパイラル

「はーい、一類の方はこちらの列にお並びください。ああー、お兄さんは三類だから」

「ふざけんな。三類は転生が虫だろう。俺は人間に戻りたいんだ、だからこの一類の列でいいんだ」

「ダメダメ、そんな事言ったら、みんなここに並びたいでしょう」

「てめー、誰に言っているんだ」

「ちょっと、ちょっと、苦しい。警備員呼びますよ。まあいいか。じゃあ一類、ルーレット回してください。資産家山田英雄。良かったですね」



「社長逃げてください。あとは我々が」側近の木村が言う。

「俺は何処で間違った。別に詐欺なんかでもうける気はなかった」

「社長、警察がここに向かっています。裏に車を用意していますから。別荘に当面の金と、高飛び用の旅券とかなんやら用意しています。ほとぼりが冷めるまで。海外で潜伏していてください」

「ああ、木村ありがとうな」

「いえ、社長と俺の仲じゃないですか」

「ああ頼むな」


翌日の新聞に、投資顧問会社ヤマヒデの社長山田英雄が自殺したというニュースが踊る。巨額の金を集めて計画倒産したヤマヒデの社長である。全ての責任は自分にあるという趣旨の遺書を残したくせに、お金は一円も手元になかった。でも最側近の木村が姿を消したことはまだニュースになっていなかった。



「ふざけんな、なんだあれは」

「苦しい、苦しい。首絞めないでください」

「結局、殺されたじゃないか。もう一度回させろ」

「三類でいいですか?」

「なめんなよ」

「もう、じゃあ、回してください。ああ、広域暴力団ヤマヒデ会の会長ですね」

「まさか抗争で死ぬんじゃないだろうな」

「ああ、大丈夫ですね。抗争は起きますが全部勝ちます」

「そうか」



「会長ご自宅でよろしいですよね」隣に座っている若頭の佐藤が言う。

「いや今日は疲れたから、直美の所に寄ってくれ。そしたらおまえら帰っていいからな」

「会長、疲れているなら今日は」

「疲れているからこそ、会いに行くんだろう」

「でも、医者に止められていますよね。最近心臓の調子が」

「うるせいな。行けって言ったら行くんだよ」


「パパ、来てくてれて嬉しい。でも佐藤さんからパパの心臓が最近弱っているって、大丈夫なの」

「大丈夫に決まっているだろう。俺を誰だと思っているんだ。ヤマヒデ会の会長だぞ。俺は誰よりも強いんだ」

「それは分かるけど」

「いいから、服、脱げよ」

「うん」

うん、どうも力が入らないな、でも男としてここは頑張らないと、直美が素に戻っている。男としての威信が。ヨシここはなりふりかまっていられない、頑張らなければ。

あれ、何だか胸が締め付けられるぞ、何だか心臓を手でもまれている感じ、あれ目の前で火花が散るぞ。何だか急に眠くなってきたぞ。



「貴様なめてるのか。結局死んだじゃねえか」

「首閉めないでください。でも抗争とかでは死ななかったでしょう」

「同じだよ」

「だから素直に三類にしましょうよ。のんびり虫として生きるのも悪くないと思いますよ」

「だめだ、もう一度ルーレット回させろ」

「じゃあ、どうぞ。ああ、おめでとうございます。今回は国家元首ですね」

「クーデターとか、暗殺はないんだろうな」

「大丈夫です、今回は誰からも殺されません」

「病気もなしだからな」

「あっ、それも大丈夫です」



「大統領、貧困と格差が埋まりません」

「大統領、貿易赤字で、国家予算が債務超過です」

「国民のデモが暴動に変わりました」

「軍がクーデターを起こしました」

「テロ組織が。警察庁長官を暗殺しました」

「治安は最悪です。夜間外出禁止令を出しましょう」

「閣僚が五人辞職しました」

「爆弾テロで、大統領のご家族が全員お亡くなりになりました」


「君たち側近は、悪いニュースしか持って来ないのか」

「いえ大統領、そういうわけでは。でも悪いニュースしかないと言いますか、我々も出来れば大統領のお喜びになれる報告をしたいとは思っていますが、何しろ」

「ちょっと一人にしてくれ」

「大統領。顔色が」

「頼むから一人に」

「はい」



「だから、殺されなくても自殺なら一緒なんだよ」

「でも嘘は付いていませんよ。どうします?また一類でルーレット回しますか?」

「もういいよ。三類で」

「では、どうぞ。ああ、ゴキブリですね」

「はあ。まあいいよ。死ぬよりはいいか」

「全然いいと思いますよ。ゴキブリなら人間の家の中で暮らせますから、危ない目にも会いにくい」

「そうか」



俺はゴキブリに転生して、この家の台所で暮らしている。

ここは天敵もいないし、とても快適だ。

冷蔵庫の一角が俺の家だ。

冷蔵庫の中というのは暖かくて最高だ。

食べ物もたくさんある。

平穏な生活。なんて俺は幸せな転生をしたのだろう。このまま平和に暮らして行こう。俺は今日も台所を散歩する。

すると今日に限って、大きな影が俺のからだのまわりに出来た。

それは俺を潰すためのスリッパの影だった。パチンと言う音と共に俺は何も分からなくなった。

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前世ルーレットの罠 (負のスパイラル) 帆尊歩 @hosonayumu

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