勇ましきお嬢様
第一話 勝手気ままなお嬢様!
暗い、体が重い…。
ふと、僕は疑問に思う。
何で体が重いんだ?
僕は記憶を探る。
確か、質問したらレアによって、穴に落とされたんだっけ。
それで、辺りが真っ暗になって、意識が遠のいて今に…。
うん、分からん。
もしかして、これが金縛りというやつなのだろうか。
辺りは真っ暗だし。
そういえば、金縛りって寝ているときに起きるんじゃなかったっけ?
もしかして僕は今、寝ている真っ最中なのだろうか。
それに気がつくと、意識がはっきりしてきて、何やら小さな声が聞こえた気がした。
「…っ!」
何を言っているのかは不明だが、女性であることは分かる。
声…そういえば、レアに話しかけられた時もこんな感じだったっけ。
ってことは、レアが一緒に来たとか?
そんなことを考えていると。突然、左頬が電気が流れたかのような痛みに襲われた。
「ねえって言ってんでしょ!」
やはり、僕は寝てしまっていたらしい。
僕は痛みで目が開く。
いや、開くなんてもんじゃない、痛みでギンギンである。
視界の歪みが収まると、辺り一面、青空が広がり、視界の右端には十センチほどの草が僕を見ていた。
この草が僕の右頬を叩いたのだろうか。
なんて、寝ぼけたことを考えつつ、僕は誰に叩かれたのか不思議そうに思いながら、仰向けの状態から頭のみを起こす。
するとそこには、紙皿でスッポリと隠せそうな貧相な胸。そして、桃色でツインテールの美少女が馬乗りになっていた。
「誰、お前」
僕がそう言うと、また左頬に電気が流れた気がした。というか、ビンタだ。普通の。
僕はヒリヒリした左頬をすぐさま左手で抑えた。
「寝ているときにビンタしたのはお前か」
「ええ、そうよ」
その返答を聞いた瞬間、右の方からガサガサと草をかき分ける音がした。
「あっ、ちょっとお嬢様!暴力はしないって…」
声のした方へそのまま右を見ると、茶髪で背の高いやつが立っていて、僕の頬を見るや否やそう言った。
「理由ならあるわ。無視に一発、呼び捨てに一発よ」
胸無しこと美少女は桃色髪を揺らしながら、腕を組み、茶髪男の方を向く。
「いや、彼は寝ていましたので無視というか聞こえてないのは当たり前で…。それに起きて知らない人が目の前にいたら、当然の反応でしょうし…」
「じゃあ、聞こえてないのが悪いのよ。私のことを知らないのも悪い」
「り、理不尽すぎませんか…。呼びかけたのはお嬢様ですし…」
茶髪男が言いかけると胸無しは右手を広げて上下に振る。
「なに?もしかして、あんたも叩かれたいの?」
茶髪男は頭を下げる。
「えっ…いや…お嬢様が正しいです…」
胸無しは微笑みながら「だよね」と返す。
そこは、引き下がらずに戦ってくれと心の中で思う僕。
そろそろ、体を起こしたいので胸無しに僕は発言する。
「ねぇ、そろそろ体を起こしたいんだけど」
「じゃあ、私が退くまでもう一回寝てろ!」
すると、頬に胸無しが降っていた右手が飛んできた。
こいつ、無茶苦茶すぎる…。
僕は強制的に眠らされた。
また、何か痛みを感じて僕は目を覚ます。
だが、今度はそこまで痛くない。
「すみません、大丈夫ですか?」
右を見ると、茶髪男が僕の右手の甲の皮膚を抓りねじっていた。
お前も同じような起こし方なのかよ…。
「え?ああ、大丈夫」
そういうと、茶髪男は僕の手を離した。
レアといい、この二人といい…死んでから会ってきた奴らの起こし方、荒すぎないか。
僕は体を起こし辺りを見回す。が、先程の胸も心も貧相な胸無しは見当たらなかった。
「胸無…桃髪の子は、どこにいるんだ?」
すると、茶髪男は上を指す。
見上げると標高百メートルはあるであろう上空にいた。
つまり飛んでいたのだ。
僕はさほど驚きはしない。神界で痛みを感じなかったり、椅子が突然下から出てきたり、穴が開いたりと、そんな経験を前もってしてきたからな。
「お嬢様は高貴なるお方ですし、魔術師ですから」
突然、茶髪男はにこやかに胸無しを見上げながら、そう言った。
高貴だと何か秀でたものでもあるのだろうか。
そう思っていると、胸無しが僕に気づき、ふわっと着地。
「あら、死んでなかったの」
ビンタ後に掛ける第一声がそれかよ。
「ビンタなんかで死んでたまるか」
そう言い合った後、茶髪男が口を開く。
「お嬢様そろそろ…」
「ええ、そうね」
何か約束事でもあるのだろうか。
いきなり、胸無しと茶髪男は地平線にまで続くただっ広い草原を歩き出した。
どこ行けばいいのか分からないので、取り敢えず僕は勝手にその二人についていくことにする。
すると、胸無しが止まって振り返ってきた。
「何?そんなに私のビンタが恋しいの?」
「そんなわけあるか」
ツッコんでいると、茶髪男も止まり、僕に聞いてきた。
「僕たちについてくると、どうなるか分かりませんよ。それでもいいのですか?」
「ああ、もちろん」と僕は即答。というか、このまま一人でこのただっ広い草原に放置される方がどうなるか分からないんだが。
「それなら、ついてきても構わないですよ。お嬢様もよろしいでしょうか?」
「ええ、むしろいてくれた方が役に立つし」
僕はその言葉に少し心を躍らせる。
「僕ってそんなに役に立つように見えるのか?」
「敵が来たとき用の捨て駒としてね」
つまり、役に立たないと…。
僕はほんの少し肩を落とした。
「お嬢様からの許可も下りましたし、では行きましょうか」
僕たち三人は再び歩き出した。
「自己紹介はしないのか?」
歩いて数分、僕は聞う。
「では、このまま歩きながら自己紹介しましょうか」
何か急いでいるのだろうか。僕は疑問を抱く。
「休憩挟んで自己紹介しないのか?」
「はい、これ以上ここにいるわけには、いきませんので」
やはり何か事情があるのだろう。そう思っていると、胸無しが自己紹介の一番手を名乗り出た。
「じゃあ、私からね。私はクレア・ハート。まぁ、クレアと呼んでくれていいわ」
胸無しことクレアの短い自己紹介に続いて茶髪男が喋る。
「僕はレオ・スヴニール。クレアお嬢様の専属執事兼護衛です。お嬢様のように派手な魔法は使えません」
続いて僕。
「僕は木戸マナト。レアというロリババアから仕事を受けた後、色々あってあそこで寝ていた。というか、気を失っていた。よろしく」
茶髪男ことレオは何か考える素振りを見せる。
「色々、気になりますね。マナト君の自己紹介」
「ええ、そうね」とクレア。
僕から見たら、二人の方が気になる。
「じゃあ、早速マナトに質問。ロリババアって何?」
クレアは元気そうに聞いてきた。
最初の質問がそれかよ。よりによって一番説明しにくい箇所なんだが。レアは神だとハッキリ言っても信じなさそうだし…。
というか、レアじゃなくてロリババアの方を採用するなよ。
僕は頭をうならせた後、答えた。
「神らしい」
「痛い人なのね」
まさかの返答に僕は少し驚く。
「あ…ああ、そうだ。レアはとっても痛い奴なんだよ」
「なるほど、所謂クソガキですね」とレオ。
レアがとんでもなくヤバい奴認定されてて申し訳なく思うが、ここで神の証明が出来ないのだから許せ、レア。
「では、質問二つ目です。キド・マナトってあまり聞きなれない名前なのですが、出身はどこなのですか?」
僕はまた頭をうならせる。
地球から来たんだなんて答えても、伝わらないだろうし…そうだ!落ちてきたところを出身にしよう。
「今さっき寝ていたところ」
レオは眉を顰めた。
「捨て子ということですか??」
「いや、落とし子だ」
益々、眉を顰めるレオ。
「分かりませんね…」
気になってクレアの方に目をやると、クレアは首を傾げていて、二人とも謎な様子。
説明しようと思ったが、そうなると神界からここに落とされてきたとか言わないといけなくなり、話がややこしくなりそうなので説明は断念する。
「まぁ、取り敢えず、ここが僕の出身だと思っといてくれ」
「……ええ、分かったわ」と首を傾げながら言うクレアに続き、レオも「分かりました…」と眉を顰めながら言った。
自己紹介で僕も気になったことがある。
「僕も聞きたいことがあるんだがいいか?」
「はい。いいですよ」とレオ。
「クレアがどこかの国のお嬢様というのは理解できるんだが、お嬢様だと何か特別なことがあるのか?さっきからレオがクレアを特別だと言ってるような言動が感じられるんだが」
「あんた知らないの?基本中の基本なんだけど」とクレア。
「ああ、知らない」
クレアはやれやれと手振りをする。
「僕が説明しますよ」とレオ。
「じゃあ、お願いね」
「承知いたしました。お嬢様。僕たちは平民、王族と分かれています。平民は魔力に優劣がありまして、少ない者から多いものまでいます。一方、王族ですが、王族は基本魔力が絶大です。優秀な魔力を持った平民が十人いたって敵いっこありません。そのくらい差があります。もちろん、王族にだって魔力の優劣がありますが、魔力が少なくても、平民十人には勝ちます。だからお嬢様は特別なのです」
「なるほど」
なんとなく、分かった気がする。
「実は王ぞ…モガっ!」
突然、レオはクレアによって、口を手で塞がれた。
「それ以上は言わなくていい」
「すみません、つい…」
早くあの芝生から離れようとしていたし、それに今の焦り具合、レアといいこいつらも色々隠しているのだろう。
正直、何を隠しているのか知りたいが、聞くことはしない。
僕も神のことは隠して喋ってるからな。
まぁ、僕は話す機会があれば話そうと思っているし、レアもこの二人もそのつもりなんだろう。
転生勇者は壊れない 辻 リツ @lazyperson
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