前世ルーレットの罠
帆尊歩
第1話 前世ルーレットの罠
「はーい、一類の方はこちらの列にお並びください。ああー、おばあちゃん、よく見てね。この紙の一番上、おばあちゃんは三類だから、隣の隣の列ね」
「この一類のルーレット、回させてもらえないかね。三類は転生が虫なんでしょう。せめて人間に転生できる一類のルーレットを引かせておくれ」
「ダメダメ、そんな事言ったら、みんなここに並びたいでしょう」
おばあちゃんは警備員に両脇を抱えられて、隣の隣の列に連れて行かれた。
「かわいそうに、転生が虫ですって」と大沢聡子が前に並んでいる吉本里江に話掛けた。
「いや三類の虫ルーレットと言うことは、なんかやらかしたということでしょう」
「にしたって、あっ自己紹介がまだ。私、大沢聡子です。二十五歳」
「あら若いわね。私は吉本里江、三十歳」
「吉本さんも若いじゃないですか。どうして亡くなったんですか?」
「事件に巻き込まれて、殺された」
「そうなんですか」
「あなたは?」
「わたしは病気です。入退院を繰り返して、この年で力尽きました」
「お互いにこんなに若くてね。だからこそ今回はいい人生をルーレットでゲットしようね」
「はい。あっ吉本さんの番ですよ」
「うん、お先」
「はい吉本里江さんですね。どうぞ、ルーレット回してください。おお、三上織江。有名女優ですね」と言って、係員は手持ちの鐘をならした。
「はい次、大沢聡子さんですね。どうぞ、ルーレット回してください。ああ、残念、山本道子、普通の人生ですね。でも、貧乏でもお金持ちでもない。普通の人と結婚して子供が出来て、子供の成長を見ながら年老いて行く」
「いえ、全然いいです。私ずっと病院のベッドで暮らしていたようなものなので、そんな人生幸せすぎる」
「そう言っていただけると」
「ごめんね。私ばかり有名女優なんて」
「全然、私は普通に生きられるだけで本当に幸せです」
「そうか、あなたは病院暮らしだったからね」
「転生したら、会いましょう。女優の友達なんて凄いし」
「いや転生したら記憶ないから」
「そうか。でも私は吉本さんの事忘れないような気がします、三上織江さんでしょう。その名前さえ忘れなければ」
「じゃあ私も山本道子と覚えておく」
「じゃあ、来世で会いましょう」
「ええ、来世で」
三上織江は自分の手首のリスカのあとを寂しげに見つめた。
結局、自分で死ぬことも出来ない。
メンタルには自信があった。
でなければ、この芸能界では生きていけない。
でも、結局事務所とマネージャーに守られて、今の女優という立場が確保出来ていた。
奢っていたつもりはないが、自分の地位は揺るがないと思っていた。
付き合った男性ボーカルグループのリーダーが、薬で捕まると、当然自分も調べられる。衝撃だったのは、いつのまにか薬を盛られれていた事。
逮捕されて、様々な取り調べを受けた。
初犯のうえ、知らぬ間に薬を摂取されていたことが状況証拠で明らかになり、結果不起訴になったが、事務所は退所になり、仕事はなくなった。
さらにSNSの誹謗中傷にさらされた。
転落なんかこんなに簡単なんだと思い知った。
織江はもう一度自分の手首を見つめる。
何度失敗したことか。
でも今度こそ、でもカッターの刃を手首に当てられない。
「迷惑な人ね」と誰かに声をかけられた。
「えっ」
「こんな児童公園で死ぬなんて、まあいいわ。うちでお茶でもしない」同い年くらいの女性だった。
「あなた三上織江さんでしょう」女性はお茶を出しながら、話掛けてきた。
「大変だったわね。でも死ぬのは良くない。負けを認めることになるから」
「どうして私なんかを」
「なんか、知らない人のような気がしなくて」
「どこかで会いましたか?」
「いえ、会ったことはないと思うけど、あっ私は山本道子といいます、一人暮らしの会社員、絶賛結婚を前提とした恋人募集中」
「そうなの」
「田舎の親がうるさくて、まだ二十九なんだけれどね。でも普通でいいのよ」
「普通って、年収七百万以上で、二十代で身長は百八十以上くらいの自分だけを愛してくれる男性?」
「いやいや、そんな。あっでも、三上さんなら、それは普通なのか」
「違うって、山本さんは?えっ、山本道子?」
「やっぱり、なんか心あたりがある?」
「いえ、そんな事はないと思うけど」
「前世で友達だったりして」
「えー」
「人生のルーレットがあって、三上さんは女優を引き当てた、でも私は普通の人生を引き当てたなんてね」
「でもそれなら、私は転落人生でガチャの罠にはまったということかな」
「まあ、落ち込んでもしょうがないから、一緒に人生挽回していこう」
「一緒に?」
「だって全部失って、行くところもないんでしょう」
「うん」
「ならここにいればいいよ。さしあたり、今日は焼き肉でも行く?」
「焼き肉?」
「あっ、三上さんは大女優だったから高級な焼き肉を食べ慣れているかもしれないけれど。今日行くのはチェーン店の焼き肉食べ放題だからね」
「うん」
前世ルーレットの罠 帆尊歩 @hosonayumu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます